2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧
その頃、カティーナはシャトと共に長老達の前へと通され、薄暗い部屋を前に、緊張した面持ちでいた。 広い板張りの床に敷物は無く、二人分の椅子が置かれてはいるが、すでに集まっていたイマクーティ達は床に直接膝をつくようにして座っている。 「参りました…
「はぁー美味かった。ごちそうさまでした」 シアンは食べ終わると砂浜に放り出してあった魔石を手に取り、魔力を込めていく。 「ほどほどでいいからね。この街じゃ魚より魔力の方が貴重だって言ったろ、魚一匹で頑張られたら困っちまう」 ヒニャは魚や網を片付け…
「海獣のいる海にねぇ…二人ともよく生きてたな」 「はっきり覚えてはいないんですけれど、シャトさんが海の中で海獣に向かって何か言ってたんです」 「海の中で?」 タドリは頷き笑顔を見せる。 「誰も信じてくれないんですけどね!」 「…それで、暴れてた海獣はどう…
その日は間もなく冬を迎える街に荷物を届けに来た父親について、シャトも遊びに来ていた。 寒さは厳しくなってきていたが、いつもと変わらない穏やかな日。 シャトはオーリスと一緒にイマクーティの子供達と林の中で遊んでいた。 まだまだ体も小さく、すでに…
林を抜け、街に入るとイマクーティはもちろんだが狼の姿も見受けられた。 ガーダが辺りを見回し、誰かに手を挙げてこちらに来るようにと合図をすると、周りのイマクーティ達とは少し毛色の違う一人が走って来る。 その姿を見ながら、ガーダは身体を屈めシア…
崖を下り終え足元が傾斜の緩い岩場になると、走りながらガーダは口を開いた。 「街の北、魔術師共の家の辺りで何かが起きているらしいが、今回の呼び出しには賛成しない者も多かった。原因が魔術師にあるならば、頼るべきは魔術の扱える者だと皆分かっている…
洞窟の出口が見えてきた。 空の青と、遥か遠くの山に積もった雪の眩しい白を岩が縁取っている。 一歩進むごとに視界が開けていくが、その様子にシアンは目を見張る。 白く染まった険しい山の連なり、その裾野に広がる広大な森、そして入り組んだ海岸線ときら…
シアンが戻って来るのを待って、シャトはリュックの口を大きく開き、『おいで』と声をかけた。 するとリュックがもぞもぞ動き、中から白い塊がシャトの胸の辺りを目掛けて飛び出して来る。 ビロードのような質感の、真っ白い大きな大福のようなものがシャト…
洞窟の中で夜明けを知ることは出来ないが、ちょうど空が明るんできた頃、シャトが目を覚ました。 オーリスは鼻を鳴らしシャトに頭を擦り付け、シャトもそれに応えて頭を撫でる。 隣に座っていたシアンはいつのまにか横たわり、オーリスの脇腹に半分埋もれる…
それからしばらく歩き、さすがに疲れてきたらしいシアンを心配してシャトがオーリスに乗るように促したが、自分だけそうゆう訳にも行かないだろうと、シアンは断り結局全員が歩いている。 「シャトも普段からいつもオーリスに乗ってるって訳じゃないんだな」 …
「えっと…北にはイマクーティの街があります。人は殆ど住んではいません」 「イマクーティって、何だっけ? 聞いたことある気はするんだけど…」 シアンは腕を組み天井を見上げるようにしながら歩いているが、足元はその程度の事で転ぶほど荒れていない。 「イマク…
食事を終えた三人はオーリスの先導で洞窟に向かっていく。 崖のそばへ寄るにしたがって、辺りの空気が冷たくなった。 「なんか、急に寒くなったな…」 普段なら辺りがどれだけ寒くても自身の魔力で体温を保つ事ができるシアンだが、今はそうしていない。 ナガコ…
それまで誰も口を開かなかったが、森を抜け視界が開けるとシアンが先を行くシャトに聞こえるように大きな声で尋ねる。 「あの山、越えるのか?」 「いいえ、山を越えることは出来ないんです。山全体が竜の巣ですから、侵せば無事ではすみません」 肩越しに答…
立ち入るだけで怒りをかうと言われる精霊の住処の近くやファタナの林、薬草の宝庫だとゆう深い森、シャトの案内で一帯をずいぶん見て回った。 キリオを迎えに行くジーとはしばらく前に別れ、今はまた三人と一匹だ。 間もなくシャトの家が見えてくるとゆうと…
「シャトねーさん?」 いつの間にかキリオが洞窟に入ってきていた。 立派な雄山羊を連れている。 「ナガコさんは?」 「奥に行ってる。そろそろ戻ってくると思うよ?」 シャトの言葉を聞きながら、キリオは座ったままのシアンとカティーナを見て、大体のこと…
なかなか回復しない二人を眺めることに飽きたのか、ナガコは撫でるのをやめ、オーリスを相手に、シアンとカティーナに向けたものと同質の魔力を範囲を狭めて次々に放つ。 その魔力に捕まらない様に、オーリスは大きく跳んで避けることをまるで遊びの様に繰り…
シアンとカティーナはその姿に息を呑んだ。 薄青く光る豊かな長い髪、肌は青白く滑らかで、胸元には輝く金の鎖が揺れているがそれ以外には何も身に着けていない。 細く長い首筋、豊かな胸、無駄のない引き締まった身体、骨格に人との大きな違いはないだろう…
シャトの言った通りのなだらかな岩場を登り、一行は洞窟に辿り着いた。 洞窟の入り口からは細い川が流れ出ている。 様子を伺うように立ち止まったシアンとカティーナに気付いていないのか、シャトとオーリスは足取りそのままに洞窟へと入っていく。 洞窟内に…
「ここを登ると近いのですが、先まで行けばもう少し登りやすい場所もあるんです。カティーナさんローブですし、気になる様なら先まで…」 シャト本人はワンピースを着ていて、膝から下は無防備だ。 カティーナより余程崖登りに適さない格好だが、『私も久しぶ…
朝食の後、用意を済ませたカティーナとシアンは外に出て、シャトを待っている。 最低限の装備として剣と短剣を身に着けているだけで、二人とも大きな荷物は持っていない。 「お待たせしました」 クラーナが用意してくれた軽食の入った袋を肩から下げ、三本の…
何かを考えている風のシアンをしばらく眺め、カティーナは口を開く。 「同行するとゆう事なら特に問題があるとは思いませんが? シアンさんは気に入っているようですし」 「そうゆうふうに見えるか?」 「違いますか?」 シアンは『違わないけど』とこめかみ…
次の朝、起き出したシアンは家の中に人の気配が無いことに気付き、身支度を整えると外にむかった。 「早いな」 戸口から出てすぐ、朝もやの中にカティーナの姿を見つけ、声をかける。 「おはようございます」 カティーナは一度振り向きそう言うが、すぐにも…
皆がデザートを食べ終わると、クラーナが男の子に声をかける。 「キリオ、お風呂お願いしてもいいかしら?」 「わかった、行ってくる」 キリオはシアンとカティーナに向かって小さくお辞儀をすると、暗くなった外へと出ていった。 「お湯を沸かすなら、私や…
カティーナの質問に大叔父が答える。 「世界全体として、狂気に飲まれる者が増えているようでね。この数百年、なんて言われているが、本当の所、いつからなのかは分からない。海に棲む者たちも同じで、それまでは結界を張り、時には戦う事で海の脅威を越えて…
西の山に日が沈み、辺りは薄暗くなっている。 崖を降り、シャトの家へと戻った一行を、シャトの父親を除く住人一同が出迎えた。 クラーナ、大叔父夫妻、クラーナの従姉、そして一人の男の子。 大叔父は銀髪と白く光るような瞳で、それ以外はほぼ、髪も瞳も黒…
戸口の外でオーリスと並び、あたりを眺める三人。 「見て回るといっても、あるのは森くらいですけれど…」 「なんか…シャトのお気に入りの場所とか、この辺にしか無いものとか、あとはなんだろ…この辺一帯を見渡せるような場所とか?」 のんびりとそう言った…
「女の方がどうしてるかは話さないし、街の人達も知らないみたいだったけど、本人はあれからすぐに街の警防団に名乗り出たらしいんだ。それまでに追い剥ぎした物殆どそのまま持ってな。持ち主が分かるものは全部返されたってことだったし、怪我人もそう居な…
言葉の続きを待つように視線が集まったが、クラーナはシャトにカップを渡すと、『ゆっくりしていってね』と言い残し、戸外へと姿を消した。 その後ろ姿を見送り、三人はそれぞれカップを口に運ぶ。 「なんてゆうか、きれいな人だな」 少し間をおいて シアン…
「お茶いただいたの」 ファタナの話が一段落すると、シャトはそう言って抱えていた籠から包を取り上げる。 「これ、置いてきちゃうから、お願いしてもいい?」 「はい、行ってらっしゃい」 シャトは二人に椅子をすすめ、小さくお辞儀をして籠を抱え直すと、…
それから三十分程歩き、シャトの家が見えてきた。 イクトゥ・カクナスからは緩やかな山道を歩くこと二時間とゆう所だろうか。 山あいにしては開けた土地に草原と畑が広がり、西の端、森からすぐの所に大小いくつもの建物が並んでいる。 一番奥の建物から姿を…