ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

おしらせ。

しばらくお休みします。 毎日更新は遥か昔のことになっているのに紹介文変えてない気もいたしますが、気持ちだけは毎日更新のつもり、とゆうことでどうかひとつ(吐血 本編になかなか戻れないねぇ。

ある魔術師の記憶 33

「さっきの…フィユリさんの話なんですが…」 話に付き合ってくれるつもりらしく、一度魔術師の眠っている方を振り返った細工師は、さっきまでと同じように少し離れた椅子に座り、椅子ごと、さっきより少しだけ身体をこちらに向けた。 「フィユリさんのことは…

ある魔術師の記憶 32

普段を知らなければ、いつも見ていなければ、波の変化は判らない。 知っていたはずのことなのに、改めて"目に映ったものしか見ていなかったのだ"と、初めのころに見た、強い波を放つ魔術師の姿を思い出し、その姿に今の魔術師を重ねる。 この二年、僕につき…

ある魔術師の記憶 31

細工師は魔術師に薄手の布団をかけると、静かに僕を工房にある椅子へと促し、『少し話しませんか』と意識の半分は魔術師の方へ向けたまま、僅かに光る涙の跡をごしごしと擦って鼻をすすり上げる。 僕の方は僕の方で整理のつかない頭を落ち着かせようと、まだ…

ある魔術師の記憶 30

その空間を満たすその空気には魔術師も気がついている様子で、微かに目を開いて精霊の方に視線を投げることもあるのだけれど、喋ることをやめようとはしない。 「何年もかかってやっと一発。シギーは約束を守ってくれた。それまでにも文字とか、知っていた方…

ある魔術師の記憶 29

「過去の出来事から新たな慣習が生まれるのは当たり前の事なんでしょうし、精霊や神格者なんかに対する畏怖や畏敬の念からくる信仰には何の文句もない。でも、私のは別。当時は知りもしなかったけど馬鹿な話よ。たった一度、街がエテバスのせいで滅びかけた…

ある魔術師の記憶 28

少し間が開いて、嘲笑するように息を漏らした魔術師は『…呆れるわね』と顔をこちらから遠ざけるように壁の方を向く。 「今、心配されてるって勘違いしたうえに、そのことが嬉しいとか思っちゃったわよ…。いちいちいらいらするし面倒だし、諦めて出ていかない…

ある魔術師の記憶 27

地下、正確には半地下の部屋の中、天井のすぐ下にある窓だけがやや明るい。 二階にも個室があるらしかったけれど、工房の奥を簡単に仕切っただけの空間を魔術師が寝室がわりに使っていて、今明かりは無いものの、精霊が躊躇いもなく向かうそこに魔術師と細工…

ある魔術師の記憶 26

自分以外に誰もいない部屋。 目の前には空っぽの人形。 ほったらかしのかまどの中では最後のおきが崩れ、白く靄のかかった硝子の筒を被せられた蝋燭はゆっくりと燃えつづけている。 実際に使ったことも無ければ、使うところを見たこともないけれど、物だけは…

ある魔術師の記憶 25

人形から抜け出た精霊は何もいわずに外へと向かい、机を挟んだ反対側には、薄く開かれたまぶたから空っぽの硝子玉のようなものを覗かせたままの人形だけが残された。 「何だったんだろう…」 首を傾げ、一人で食事を続けながら、片手は傍らに置かれた紙の束を…

ある魔術師の記憶 24

魔術師が工房に篭るようになってから、来客の対応は殆ど僕の仕事のようになっていたけれど、その多くは魔術師本人が居ないとどうにもならない事のようで『本人は今対応できない』と告げるとほぼ全員がそのまま店を後にする。 魔術師が姿を見せないことを承知…

ある魔術師の記憶 23

「初めて口をきいたのはあの人が爺様に連れられて来るようになって五、六年してからです。人づてに聞いた外の世界に惹かれて、自分達のありように疑問を持って…わざわざ波風を立てる気も、誰かに迷惑をかけるつもりもなかったのですが、同じ立場の仲間達から…

ある魔術師の記憶 22

そのころには始めのうちは僕を避けていたらしかったもう一人の先住者、魔術師と一緒に仕事をしている細工師とも会話を交わすくらいにはなっていたけれど、魔術師の事も細工師の事も、そして精霊のこともよく知らないまま、ただ魔術の事だけを考えて生活して…