魔神の棲む山
「シャトねーさん?」 いつの間にかキリオが洞窟に入ってきていた。 立派な雄山羊を連れている。 「ナガコさんは?」 「奥に行ってる。そろそろ戻ってくると思うよ?」 シャトの言葉を聞きながら、キリオは座ったままのシアンとカティーナを見て、大体のこと…
なかなか回復しない二人を眺めることに飽きたのか、ナガコは撫でるのをやめ、オーリスを相手に、シアンとカティーナに向けたものと同質の魔力を範囲を狭めて次々に放つ。 その魔力に捕まらない様に、オーリスは大きく跳んで避けることをまるで遊びの様に繰り…
シアンとカティーナはその姿に息を呑んだ。 薄青く光る豊かな長い髪、肌は青白く滑らかで、胸元には輝く金の鎖が揺れているがそれ以外には何も身に着けていない。 細く長い首筋、豊かな胸、無駄のない引き締まった身体、骨格に人との大きな違いはないだろう…
シャトの言った通りのなだらかな岩場を登り、一行は洞窟に辿り着いた。 洞窟の入り口からは細い川が流れ出ている。 様子を伺うように立ち止まったシアンとカティーナに気付いていないのか、シャトとオーリスは足取りそのままに洞窟へと入っていく。 洞窟内に…
「ここを登ると近いのですが、先まで行けばもう少し登りやすい場所もあるんです。カティーナさんローブですし、気になる様なら先まで…」 シャト本人はワンピースを着ていて、膝から下は無防備だ。 カティーナより余程崖登りに適さない格好だが、『私も久しぶ…
朝食の後、用意を済ませたカティーナとシアンは外に出て、シャトを待っている。 最低限の装備として剣と短剣を身に着けているだけで、二人とも大きな荷物は持っていない。 「お待たせしました」 クラーナが用意してくれた軽食の入った袋を肩から下げ、三本の…
何かを考えている風のシアンをしばらく眺め、カティーナは口を開く。 「同行するとゆう事なら特に問題があるとは思いませんが? シアンさんは気に入っているようですし」 「そうゆうふうに見えるか?」 「違いますか?」 シアンは『違わないけど』とこめかみ…
次の朝、起き出したシアンは家の中に人の気配が無いことに気付き、身支度を整えると外にむかった。 「早いな」 戸口から出てすぐ、朝もやの中にカティーナの姿を見つけ、声をかける。 「おはようございます」 カティーナは一度振り向きそう言うが、すぐにも…
皆がデザートを食べ終わると、クラーナが男の子に声をかける。 「キリオ、お風呂お願いしてもいいかしら?」 「わかった、行ってくる」 キリオはシアンとカティーナに向かって小さくお辞儀をすると、暗くなった外へと出ていった。 「お湯を沸かすなら、私や…
カティーナの質問に大叔父が答える。 「世界全体として、狂気に飲まれる者が増えているようでね。この数百年、なんて言われているが、本当の所、いつからなのかは分からない。海に棲む者たちも同じで、それまでは結界を張り、時には戦う事で海の脅威を越えて…
西の山に日が沈み、辺りは薄暗くなっている。 崖を降り、シャトの家へと戻った一行を、シャトの父親を除く住人一同が出迎えた。 クラーナ、大叔父夫妻、クラーナの従姉、そして一人の男の子。 大叔父は銀髪と白く光るような瞳で、それ以外はほぼ、髪も瞳も黒…
戸口の外でオーリスと並び、あたりを眺める三人。 「見て回るといっても、あるのは森くらいですけれど…」 「なんか…シャトのお気に入りの場所とか、この辺にしか無いものとか、あとはなんだろ…この辺一帯を見渡せるような場所とか?」 のんびりとそう言った…
「女の方がどうしてるかは話さないし、街の人達も知らないみたいだったけど、本人はあれからすぐに街の警防団に名乗り出たらしいんだ。それまでに追い剥ぎした物殆どそのまま持ってな。持ち主が分かるものは全部返されたってことだったし、怪我人もそう居な…
言葉の続きを待つように視線が集まったが、クラーナはシャトにカップを渡すと、『ゆっくりしていってね』と言い残し、戸外へと姿を消した。 その後ろ姿を見送り、三人はそれぞれカップを口に運ぶ。 「なんてゆうか、きれいな人だな」 少し間をおいて シアン…
「お茶いただいたの」 ファタナの話が一段落すると、シャトはそう言って抱えていた籠から包を取り上げる。 「これ、置いてきちゃうから、お願いしてもいい?」 「はい、行ってらっしゃい」 シャトは二人に椅子をすすめ、小さくお辞儀をして籠を抱え直すと、…
それから三十分程歩き、シャトの家が見えてきた。 イクトゥ・カクナスからは緩やかな山道を歩くこと二時間とゆう所だろうか。 山あいにしては開けた土地に草原と畑が広がり、西の端、森からすぐの所に大小いくつもの建物が並んでいる。 一番奥の建物から姿を…
カティーナのため息の後で、シャトは魔神について話し始める。 「あくまで人が存在を区別するために使っている呼び名ですが、人の力では及ばない者、あるいは人でありながら何かを成した者の事を"神格者"もしくは単に"神"と呼んでいます。古い言葉を使うなら…
カティーナは綺麗なお辞儀をし、 「お久しぶりです」 と言って微笑む。 「この前はありがとうございました」 シャトもそう言い、頭を下げた。 「今、シアンさんを家に案内する所だったんですが、まだ少し先なので、ここで会えてよかったです」 「突然訪ねて…
周囲を山と森に囲まれた西の高地。 日差しは強いものの、時々吹く涼しい風に、夏の終わりを感じ始める頃だ。 9番目の月が間もなく終わる。 籠いっぱいの薬草を抱えたシャトが、楽しそうにじゃれ合う数頭の動物と共に歩いている。 「おーい! シャトー!!」…