ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟

祈りの洞窟 19

分かれ道まで戻ると、魔獣はシャトにだけ伝えるつもりで言葉を紡ぐ。 『この先には、身勝手な人間に傷付けられた者、いわれなく虐げられた者、そうゆう者たちが多く居る。これからも人間を招きいれるつもりはないが、お前なら歓迎できるやもしれん。私は命尽…

祈りの洞窟 18

魔獣は立ち止まるとシャトに向かって語りだす。 『我々はそう数が多い訳でも、人のそばで暮らす訳でもない。種としての名などもってはいないし、個としても、名を持つのは稀なことだ。その中でもこれは珍しい一生をおくったらしいな…。人に心を寄せ、人の為…

祈りの洞窟 17

泉を挟んだ対岸には、岩の陰に隠れてはいたが、奥へと続く道がぽっかりと口を開いていた。 シャトは隣を歩くシアン達に、先を行く魔獣の事を話し始める。 「さっきあの方は、洞窟を荒らす人たちをこの先に通したくない、とおっしゃっていました。奥には人を…

祈りの洞窟 16

「知らない事は知らないでいいから、嘘つかないで正直に答えてくれる?」 明らかに年下のシアンからそう言われ、弓遣いは苦い顔をしながらも頷く。 「私達がここに居るって知ってたよな?」 「先に洞窟に潜っている奴がいるとは聞いた」 「それだけか?」 「…

祈りの洞窟 15

打ち出された火球を風で防ぐのは難しいと判断したのか、弓遣いはそれを避けようと飛び退く。 そして足が地面についた瞬間、左足の甲をシアンの放った矢が射抜いた。 呻きを漏らし、思わずよろめく弓遣いの右の太腿に次の矢が刺さる。 右の肩を狙った次の矢は…

祈りの洞窟 14

正面の三人の男のうち二人は剣を、一人は弓矢を構えている。 オーリスは真っ直ぐ男達に向かって勢いよく駆けていく。 リーダー格の男が左手を掲げ何かを呟くと、辺りに薄っすらともやがかかり、そのもやが凝集するかの様に空中に何本もの鋭く尖った氷塊が現…

祈りの洞窟 13

魔獣の居なくなった空間に、どことなく気まずい空気が流れている。 そんななかで最初に口を開いたのはカティーナだった。 「人が来る、とゆうのは、どうゆうことなのでしょうか」 シャトは静かに首を横に振る。 シアンは、なんにせよ今考えても仕方がないか…

祈りの洞窟 12

へたり込み、肩で息をするシアンにカティーナは剣を構えたまま視線を向ける。 「ま…て。はぁ、はぁ、はぁ、んっ、…声、聞こえてた。シャトの。あと、そっちの、大きい、角の、鳴き声…」 シアンは息を整える間も惜しんでそう言った。 そして一度言葉を切ると…

祈りの洞窟 11

洞窟の最奥部はずいぶん入り組んでいるが、シャトとオーリスは何かを目印にでもしているのか、ほとんど迷いなく駆け抜けていく。 今までで一番とゆうくらいに広い空間に出ると、行き止まりなのか、辺りに道らしきものは見当たらず、大きな泉が広がっている。…

祈りの洞窟 10

シャトは二人のそばまで来ると改めて頭を下げて言う。 「先程はありがとうございました」 女は胸の前で、いやいやいや、と手を振り、 「私達何もしてないし」 と困ったように笑う。 そして、シャトとオーリスを均等に眺め、真面目な顔で続ける。 「時間ある…

祈りの洞窟 9

洞窟をずいぶん深くまで潜った先、大きな泉のそばの岩に先程の二人連れが腰を下ろしている。 ブーツを脱ぎ、ズボンの裾と袖とを捲り上げた女の手には、シャトが市で買ったものより、更に深い青色の石が握られている。 女は左手の指をパチンと鳴らす事をきっ…

祈りの洞窟 8

剣同士が強くぶつかり、シャトは勢いに負けて後退するが、すぐに体勢を立て直し、隠していた小瓶を、できる限り遠くに向かって放り投げる。 そして宙に舞う小瓶目がけて短剣を放った。 かしゃん。 と軽い音で小瓶が割れ、中に入っていた粉が辺りに広がり、降…

祈りの洞窟 7

シーナの打ち出した炎がシャトを襲うか、と思った瞬間、洞窟内を隔てるように天井まで白い壁がたち上がった。 その壁に炎はかき消される。 「っ…! 何なんだよっ!!」 シーナは続けざまに壁に向かって炎を打ち出すが、壁からは時々ぽろぽろと白い塊が転がり…

祈りの洞窟 6

洞窟につくまでの間に、黒髪の娘や追い剥ぎの二人組に出会うことは無かった。 女は村で受け取った地図とは別の地図を広げ、言う。 「さて、どうする? 洞窟に居るとすれば祭壇の方だろう、って言われたけど、下に降りる道とそれは別みたいなんだが」 「本気…

祈りの洞窟 5

それより少しだけ時を遡り… 洞窟からそれほど遠くない、草原と砂地の合間の村に続く道。 その道をゆく旅人らしい二人連れの片方が口を開く。 「あれか? 一番近い村ってゆうのは」 生地の丈夫なゆったりとしたズボンとごついブーツ、襟が肩口まで大きく開い…

祈りの洞窟 4

「どうする?」 シーナは冷たい声で問いかける。 シャトの表情に怯えはない。 問いかけには答えず、シーナを真っ直ぐに見つめていた。 入り口から聞こえる羽音、岩壁から滲み出した雫の落ちる音、小さなはずの音がその空間にやけに響く。 張り詰めた、とゆう…

祈りの洞窟 3

シーナが手を離すと、シャトは少し何かを考えてから、口を開く。 「私はシャトと言います、あの子はオーリス。よろしくお願いします」 「オーリス…? …確か、白い、って意味だったわね? ぴったりの名前」 シーナは今はあまり使われることの無い言語からの名…

祈りの洞窟 2

身構えたオーリスの前に岩陰から何者かが飛び出し、落ちてきた岩の軌道を剣を沿わせることでそらせ、そのままの勢いで投げ飛ばす。 衝撃で破片が飛び散ると同時に、あたりは砂煙に包まれた。 オーリスはシャトの側を離れない。 「大丈夫、ごめんね」 シャト…