ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

祈りの洞窟 13

魔獣の居なくなった空間に、どことなく気まずい空気が流れている。 そんななかで最初に口を開いたのはカティーナだった。 「人が来る、とゆうのは、どうゆうことなのでしょうか」 シャトは静かに首を横に振る。 シアンは、なんにせよ今考えても仕方がないか…

祈りの洞窟 12

へたり込み、肩で息をするシアンにカティーナは剣を構えたまま視線を向ける。 「ま…て。はぁ、はぁ、はぁ、んっ、…声、聞こえてた。シャトの。あと、そっちの、大きい、角の、鳴き声…」 シアンは息を整える間も惜しんでそう言った。 そして一度言葉を切ると…

祈りの洞窟 11

洞窟の最奥部はずいぶん入り組んでいるが、シャトとオーリスは何かを目印にでもしているのか、ほとんど迷いなく駆け抜けていく。 今までで一番とゆうくらいに広い空間に出ると、行き止まりなのか、辺りに道らしきものは見当たらず、大きな泉が広がっている。…

祈りの洞窟 10

シャトは二人のそばまで来ると改めて頭を下げて言う。 「先程はありがとうございました」 女は胸の前で、いやいやいや、と手を振り、 「私達何もしてないし」 と困ったように笑う。 そして、シャトとオーリスを均等に眺め、真面目な顔で続ける。 「時間ある…

祈りの洞窟 9

洞窟をずいぶん深くまで潜った先、大きな泉のそばの岩に先程の二人連れが腰を下ろしている。 ブーツを脱ぎ、ズボンの裾と袖とを捲り上げた女の手には、シャトが市で買ったものより、更に深い青色の石が握られている。 女は左手の指をパチンと鳴らす事をきっ…

祈りの洞窟 8

剣同士が強くぶつかり、シャトは勢いに負けて後退するが、すぐに体勢を立て直し、隠していた小瓶を、できる限り遠くに向かって放り投げる。 そして宙に舞う小瓶目がけて短剣を放った。 かしゃん。 と軽い音で小瓶が割れ、中に入っていた粉が辺りに広がり、降…

祈りの洞窟 7

シーナの打ち出した炎がシャトを襲うか、と思った瞬間、洞窟内を隔てるように天井まで白い壁がたち上がった。 その壁に炎はかき消される。 「っ…! 何なんだよっ!!」 シーナは続けざまに壁に向かって炎を打ち出すが、壁からは時々ぽろぽろと白い塊が転がり…

祈りの洞窟 6

洞窟につくまでの間に、黒髪の娘や追い剥ぎの二人組に出会うことは無かった。 女は村で受け取った地図とは別の地図を広げ、言う。 「さて、どうする? 洞窟に居るとすれば祭壇の方だろう、って言われたけど、下に降りる道とそれは別みたいなんだが」 「本気…

祈りの洞窟 5

それより少しだけ時を遡り… 洞窟からそれほど遠くない、草原と砂地の合間の村に続く道。 その道をゆく旅人らしい二人連れの片方が口を開く。 「あれか? 一番近い村ってゆうのは」 生地の丈夫なゆったりとしたズボンとごついブーツ、襟が肩口まで大きく開い…

祈りの洞窟 4

「どうする?」 シーナは冷たい声で問いかける。 シャトの表情に怯えはない。 問いかけには答えず、シーナを真っ直ぐに見つめていた。 入り口から聞こえる羽音、岩壁から滲み出した雫の落ちる音、小さなはずの音がその空間にやけに響く。 張り詰めた、とゆう…

祈りの洞窟 3

シーナが手を離すと、シャトは少し何かを考えてから、口を開く。 「私はシャトと言います、あの子はオーリス。よろしくお願いします」 「オーリス…? …確か、白い、って意味だったわね? ぴったりの名前」 シーナは今はあまり使われることの無い言語からの名…

祈りの洞窟 2

身構えたオーリスの前に岩陰から何者かが飛び出し、落ちてきた岩の軌道を剣を沿わせることでそらせ、そのままの勢いで投げ飛ばす。 衝撃で破片が飛び散ると同時に、あたりは砂煙に包まれた。 オーリスはシャトの側を離れない。 「大丈夫、ごめんね」 シャト…

祈りの洞窟 1

赤い岩山が連なっている。 日差しを受けて白く光るように見える崖の一角で、艷やかな褐色の肌の女がひとり、肩にかかる程の金色の髪を風になびかせながら、少し離れた崖下を眺めている。 ピッタリとした丈の短いタンクトップにショートパンツとゆういでたち…

市の立つ街 3

シャトはいくつかの魔石を女将に渡し、リュックから大きな肩掛けの袋と細かい文字の並んだメモを取り出した。 リュックを荷車に置くとオーリスのそばまで寄って『今日は一緒に行けないから、いい子で待っててね』と抱きしめる。 「これ、お願いね」 女将から…

市の立つ街 2

『ありがとうございます』と言いながら受け取ったグラスの冷たさに目を細め、シャトはグラスに頬を寄せる。 「よく冷えてるわよ」 「あ、すみません…いただきます」 ちょっと困ったように微笑むシャトの声に合わせてまるで挨拶をするようにオーリスが頭を下…

市の立つ街 1

草原と畑に囲まれた街が見える。 日の出からまだそれほど時間は経っていないが、街のあちらこちらから賑やかな声が聞こえてくる。 8番目の月、2度目の大地の日、今日は月に1度の大市が立つ日だ。 街の外れを、牛と同等かそれをこえる程に大きな白兎が、荷車…

伝承

世界はガラスに閉じ込められた気泡のようなものだと誰かが言った。 何者かが生きる星とそれを囲む無限の宇宙(そら)、それを1つの世界とするならば、見えない壁の向こうには、ガラスに例えられた、全ての素となる魔力の海が、無数に存在する世界を隔て満ち…