ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 12

へたり込み、肩で息をするシアンにカティーナは剣を構えたまま視線を向ける。

「ま…て。はぁ、はぁ、はぁ、んっ、…声、聞こえてた。シャトの。あと、そっちの、大きい、角の、鳴き声…」

シアンは息を整える間も惜しんでそう言った。

そして一度言葉を切ると、大きく息を吐き、思い切り吸い込む。

「シャト、君は、獣遣い?」

シャトは躊躇いなく頷く。

「どうゆうことですか?」

「カティーナ、この世界には、そうゆう人が、居る。何とでも話せる。契約で力を借りる。そうゆう"血"があるの」

 カティーナはシアンとシャトの視線を受けて、少し躊躇いながらも剣を納める。

それを見届けるとシャトは魔獣を見つめて言う。

「闘うつもりはありません」

魔獣は何も答えなかったが、ゆっくりと周囲の水を球体へと戻した。

やっと呼吸が落ち着いてきたシアンは、はぁ〜、と大きなため息をついた。

 

『傷つけたのがあれ達でないとしても、闘う気が無いとどうして言える?』

その問いかけに、シャトは魔獣を見上げる。

『あれ達はここに何をしに来た? お前はあれ達を知っているのか?』

 シャトにしかわからない言葉は更に続く。

『この場を荒らす者達が居るのだ…泉に沈んだ物を抱えて帰るくらいなら私も何も言いはしない、だが、欲は際限を知らぬらしい。ここには外で生きられぬ者達が多く暮らしている。新たな泉を、と、新たな宝を、と深くまで入り込んだ人間を避け、皆奥へ奥へと移ってきた。これ以上、先に進ませることは出来ん』

シャトは顔を伏せる。

自分の服をきゅっと握り、何を思っているのか、唇を噛んでいる。

「さっきから、何て言ってるの?」

シアンは立ち上がり、あくまで素直にそう聞いた。

魔獣の力に怯え萎縮することも無く、だからといって高慢な態度を取るわけでもない。

少なくとも種族の違いといったものとの付き合い方を、全く知らないわけではないらしかった。

「お二人が、ここに何をしに来たか、と尋ねています」

魔獣はシャトが慎重に言葉を選ぶ様子に僅かながら不満そうだが、それ以上何かを言うことはなかった。

「私達は街で、仕事を受けた。鉱石の加工やなんかをする店が、ここの石を持ち帰れば買い取るって言ってる」

シャトはシアンの言葉を繰り返すように、魔獣に伝える。

「ここが精霊への祈りの場だってことは知ってる。あまり余計なことをするつもりはないんだ、すぐに引き返せと云うなら従うよ」

ティーナはシアンの言葉を静かに聞いている。

シャトは再び伝え、魔獣の言葉に不安そうな表情を見せる。

「今、何人もの人がこっちに向かっているそうです、詳しい事はわかりません。でも、嫌な感じがする、と…」

魔獣はまた水面を踏み鳴らすように蹄を打ち付ける。

すると水が何枚ものカーテンの様に泉の上で揺らめき、魔獣の姿を覆い隠していく。

水が泉に戻る頃には魔獣の姿はどこにも無くなっていた。

『何が起きるか、見せてもらおう…』

魔獣が言い残したその一言が、シャトの耳にだけ残っていた。