ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

水場

「シャト?」

「…はい…?」

シャト自身には言葉を発したとゆう自覚はなく、あくまで、思っただけ、のつもりだったようで、シアンに顔を覗き込まれて不思議そうに首を傾げた。

「力が強いって、大きい方の子?」

「…? えぇ、たぶん」

自分で口にしたつもりはないにもかかわらず、ぼんやりとしているせいか、シャトはシアンの質問に深く考えずに答えを返し、二匹の魔獣に視線を送るとゆっくりと微笑んだ。

「…ずいぶん強い魔力を持っているみたいですね、もしかしたら使い方は知らないのかもしれませんが…」

「…獣遣いの方はそうゆう事もお分かりになるんですか?」

「そうゆうこと…?」

後ろを歩いていたカティーナを振り返ったシャトは立ち止まるとまた首を傾げ、その顔をまじまじと見つめる。

「…魔力が強い、と、おっしゃったでしょう?」

そう言われた事でシャトは、自分は何を話しただろうか、と、少し考え、それから『そんなこと言いましたか?』と答えたが、どうやらその時間で今の流れで自分が何を言ったのかとゆう事は把握したようで、その答え方は何かを誤魔化す為のもののようだった。

「…でもそうかもしれませんね、回復がずいぶんと早いですし、そうゆう意味では力が強いのだと思います。カティーナさんもそうでしょう…?」

「私ですか…?」

話題がカティーナのことに移ると、シアンは『水場が近いみたいだからどうせならそっちで』と道の先を指差した。

その指の先に青い石を掲げた石柱…街道を歩く者達に水場を知らせる目印…を確認した二人は一旦会話を切ると、少し先で立ち止まって振り返ったオーリス達に追いつくように、と早足に歩きだし、一行は石柱に彫られた文字に従って少し離れた森の方へと道を折れた。

 

森の中に湧いた泉にはどうやらいろんな生き物が訪れるらしく、周囲の木々には小さな引っかき傷や、皮を剥いだ跡が残っていたが、使いやすいように水が湧き出る場所に加工が施されている事と、その周囲に桶やひしゃくが据えられていることから、日常的にこの場所に水を汲みに来る者が居るのだろうと推察された。

「街とかは見えなかったけど、近くに住んでる奴が居るんだな…」

早速喉を潤したシアンは周囲を見回し、森の中へと続く細い道に目を止めると、森の奥を見通すかのようにその道の先に目を凝らす。

「何か見えますか?」

「いや、別に。でもここを使ってる奴はこの道の先に住んでるんだろうな、道が荒れてないし…」

ここへ来るまでにしていた魔獣やカティーナの話を誰かが率先して再開する事もなく、それぞれが水筒の水を汲み直すと、シアンは歩いている間もずっと眠そうにしていたシャトを気遣かったのか、倒木に腰を下ろし、荷物の中から市で買ったらしい焼き菓子を取り出して『休憩休憩!』とカティーナとシャトに一つずつ放る。

「これは?」

「わかんない。おいしそうかな、と思って買ったけど、食べてなかったから」

「そうなんですか…いただきます」

生地に練り込んである粒々は何なのだろう、とでも言うように、観察しながら食べはじめたカティーナの一方で、シャトは『ありがとうございます』と言いはしたもののそれを口にすることはなく、水を飲みはじめたオーリスや魔獣達を眺めていたと思うとうとうとと首を揺らしはじめた。