ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

来訪者

シャトが言った通り、夜明け前から陣の周辺は魔獣達と団員が動いているらしくざわついている。

シャトは結局シアン達の居る幕には戻らず、オーリスのそばで夜を過ごした。

そして、まだ団員達すら起き出さないうちに静かに幕へと戻り、まるでずっとそこに居たかの如く振る舞ったが、カティーナはそのことに気がついているようだった。

「大丈夫ですか?」

シアンがまだ起き出す前、シャトの事を気にしたカティーナにシャトは何も答えずに頷き、一足先に外へと出る。

間もなく日の出とゆうころには夕食の後で出かけて行った団員達も戻り、手が空いたものから朝食をとりはじめる。

そんな中でシャトもグドラマのそばに座ったが、周りと何かを話す訳でもなく一人で食事をとっていた。

シャトと話をしたそうな者も、グドラマの諭すような視線を受け、無理にシャトを会話に加えるようなことはせずに普段通りに話して食べて席を立つ。

 

後からやってきたシアンとカティーナの食事が終わると、『なんなら二、三日居たらいい』とゆう幾人もの団員達に『先があるから』と応え、急ぐ旅でもないのだが、シャトを含めた三人でグドラマとその周囲の団員達に挨拶を済ませ、まだ早いうちに陣を離れた。

それはシャトの意向でもあっただろうが、言い出したのはカティーナで、シアンとしては拒む理由もなく、すぐに決まったことだった。

 

陣を出てからは街道沿いに進み、街と村を一つずつ越えた。

それからまたしばらく歩き、比較的大きな街が見えると、まだ日は傾いてもいないのだが三人は少し入った森の中に野営の準備を済ませ、買い出しの為に街へと向かっていく。

井戸を借り、簡単に食べられる干した果実や木のみ等の携行食を買い、生地屋を眺めていたカティーナは"安くて丈夫な布"をシャトとシアンの目と口を借りて手に入れた。

それから生の野菜や果物を、そしてその日の夕食用にとシアンは干した魚を選んでいる。

シャトは何故かそこには近づかず離れて待っていたが、急に空を見上げるとシアンよりも近くに居たカティーナに、『先に戻ります』とだけ告げて街の外で待っているオーリスの方へと走り去っていった。

「シャトどうしたの?」

「先に戻ると、それだけ」

「何か聞こえたりした?」

「何か…とゆうと?」

「鳴き声とか、遠吠えとか?」

「気付きませんでしたが…」

「まぁ、戻るだけなら構わないけど、シャト何が好きなんだろ?」

シアンは自分の好みで買ってしまっていいものだろうか、と少し考えたようだったが、カティーナが自分の分もシアンに選んでくれるようにと頼むと、数日分まとめて買ってしまおうと値下げ交渉を始めたらしかった。

 

しばらくしてから二人は野営の準備をした場所に戻ったが、そこにシャトの姿は無く書き置きの類も見当たらない。

オーリスと一緒となると近くにいるかどうかも判らない、と思いながらも、シアンもシャトの様子に違和感を覚えていたのか、カティーナと手分けをして辺りを探して回る。

探しはじめてそれほど経たないうちに森を街道沿いに少し戻った所でシャトとオーリスの姿を見つけたカティーナ。

ただ、そこにはもう一つ、長い黒髪を一つにまとめ傭兵団の皆と同じ服に身を包んだ姿があり、何か特別な話でもしているのでは、と、一旦足を止めた。

シャトを少し見下ろす様にして話すその団員らしい人物は、頭巾こそかぶっていないものの、鼻の上まで引き上げられた布のせいもあり、カティーナの位置からではその表情は読めない。

しかし、シャトは明らかに困った顔をしていて、詰め寄る相手に一歩下がり、背にしている木に身体を預けた。

そのシャトを逃がすまいとするように迫り、背後の木を強く叩くようにして顔を近付けた相手に何を言われたのか、シャトとしては珍しく『そんなことない!』と少し怒ったように大きな声で言い返し、その後で悲しげに歪んだ顔を俯ける…。

ティーナはさすがに放っておけないだろう、と足早に二人に近付いていくが、シャトの傍に伏していたオーリスが振り返り、シャトがカティーナに気付いたのとほぼ同時に、突然身体に力が入らなくなり、その場で膝をつく。

途切れかけた意識の端でシャトが何かを言いながら駆け寄ってきたのを見たカティーナは身体に風を感じ、もう一人の蔑むような視線には気付かないままその場に沈むこむように意識を失っていった。