ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔獣達はどちらも随分と元気を取り戻し、過敏になっていた音や動きへの反応も大分落ち着いたが、ただ一晩休んだだけでそれだけの回復をみせたことにシアンは多少なりとも驚いていた。

嵐の影響で回復力が上がっているのか、それとも元々回復力の高い種族なのだろうか、そんなことを考えながら、魔獣達の傷を診るシャトの手元を覗き込み、『それ程ひどくはないんだな』と声をかけると、無意識に手を動かしていたのかシャトははっとしたように身体をぴくんとはねさせた。

「シャト、もしかして具合悪い?」

「いえ、そうゆうわけでは。ただ、少し眠くて…」

「ならそれ終わったら少し休んでから出よう。そのまま歩くのはさすがに心配になる」

「大丈夫ですよ、いつものことなので。それに、す…」

「…す?」

「いえ、なんでもありません。すぐに片付けますから…」

眠気を"いつものこと"とゆうシャトは、すぐに回復するわけでもない、と言いかけたのだが、それを口にすることは避けているのか、気付いて口をつぐんだ後は一瞬顔を強張らせた。

そしてその時だけは少し眠気がとんだようになり、聞き返したシアンに何事もなかったかのように微笑んでみせると、手当を済ませて荷物を片付け始める。

しかし、片付けを終える頃にはまた眠そうに目を細めていて、間にぱちぱちと細かなまばたきを挟みながら繰り返されるゆっくりとしたまばたきは、閉じている時間がいつもよりも随分と長い様に感じられた。

「シャト、本当に平気?」

「大丈夫です、歩く分には問題ありません」

本人がそう言っていても、シャトの様子を見ていると、無理でも休ませようか、とも思うらしかったが、シアンは辛そうならまたその時に考えるか、とシャトの様子を見ながら、二匹の魔獣を背に乗せたオーリスの後ろを歩いていた。

小さい方の魔獣はオーリスの邪魔にならない位置で翼を閉じたり広げたりを繰り返し、時々強くはばたくとその大きな瞳で周囲を見回し、掠れた声で鳴く。

シアンが何の気なしに『こっちくるか?』と腕を広げると魔獣は少しためらった後でばさばさっと飛び上がり、広げられた腕に掴まるようにしてシアンの顔を見つめる。

「し、あん」

「へ?」

「しー、あーん」

「私?」

「しーあーんー!!」

「ねぇ、シャト、すごい呼ばれてるんだけど!?」

「…えぇ、そうですね…。間違いなくシアンさんのこと呼んでます」

「しーあーんー」

「…どうしたらいいの?」

「…。…何か、お話、してほしいみたいですね…」

「お話って、えーと…」

シアンが悩んでいるうちに魔獣はオーリスの背に戻って行ったが、それでもずっとシアンの名前を呼んでいた。

シャトには魔獣がシアンに特別な好意を抱いた訳ではなく、単に音として口にしやすいのがシアンの名前だったとゆうことが解っていたが、言葉を取り戻したいとゆう魔獣にはプラスになるはず、と、深く考えずに答えると、聞こえてくるシアンの声を理解しないままBGMのように流していく。

「あなたは力が強いのね…」

ぼんやりとした頭でオーリスの背を見つめたシャトは、纏わり付く眠気に引っ張られるように、魔獣に向かってそう口にした。