体質
「皆よく食べるんだな」
「私は苦手なんですが…」
今までのことを考えてもシャトが特別少食な様には思えないが、山になった皿の上の料理はいっこうに減っていかない。
「全く、皆には困ったね。シャト、無理せず他に回しなさい」
みかねたグドラマが周りを窘めると、皿の上の料理はすぐにはけ、シャトは安心したように息を吐いた。
「無理して食べる事はないが、また少し細くなったろう? どんな時でもきちんと食べてきちんと眠りなさい」
「…はい」
心当たりがあるからだろうか、シャトは俯いて小さな声で返事をする。
シャトも華奢ではあっても細すぎるとゆうほどではないし、周りの女性達と比べてもやや細身とゆう程度で大きな違いはないだろう。
それを考えるとその場に居る獣遣い達はよく食べてよく飲む割に年齢を問わず細身で、背もそれほど高くない。
男性も女性も引き締まってはいるものの筋骨隆々といった体型は一人もおらず、頼りない訳ではないが、剣や斧、槍を扱うような傭兵を思い浮かべるとやや違和感があるだろう。
「どうかしたかな?」
手が止まっていたシアンにグドラマは尋ね、シアンは『いえ』と首を振る。
「若い娘さんには何もないところでつまらないだろう」
「いえ、あれ程に多くの種が集まっているのを見るのは初めてですし…」
シアンは"賑やかなので驚いた"と言いかけて口をつぐんだ。
どうしても街に居た獣遣いはがちらつくが、シャトの家族も賑やかだったし、仲間内での食事がいつでも"葬送"のようであったらむしろその方が驚くだろう。
「皆さんよく召し上がるんですね」
「獣遣いの"体質"でね」
グドラマの言葉にシャトを含め周囲の獣遣い達の視線が集まったが、グドラマがそれ以上の事を話すわけではないらしいと分かるとそれぞれが食べて、飲んで、喋って、とすぐにそれまでと変わらない雰囲気に戻った。
シャトもカティーナを交えて隣に座った女性との話を続け、グドラマはシアンにお酒のおかわりをすすめ、穏やかに話し出す。
「シャトと一緒に過ごしてどうだね?」
「え…? あー、どうでしょう。楽しいと思いますし、刺激もありますが、いろいろと…少し心配になります」
シアンはすでに酔っているのか、初めて会った相手に小さな声で本音を漏らした。
グドラマはふむ、と頷き、シャトを見る。
「シャトは嘘や誤魔化しが下手だからね、一緒に居る内に解ることもあるだろう」
シアンは何が心配なのかを口にはしなかったが、グドラマはグドラマなりにそれを解したらしく、それだけ言うと一足先に食事の輪から離れて行った。
何が嘘で、何を誤魔化していて、何が解るのか、シアンは首を傾げて言われたことを反芻していたが、途中からはシャト達の会話に混ざり、いつの間にか皿の料理もたいらげている。
「さすがに食い過ぎだな…」
「私は食べきれないと思ったので先に他の方に取ってもらいました」
子供達も皿に山になっていた料理をしっかりと食べきったらしかったが、慣れているのかシアンほどこたえてはいないらしく、片付けを終えると魔獣達を交えて何かの訓練なのか、それともただ遊んでいるのか、あっちへ行ってそっちへ行ってと動き回っている。
その様子を眺めながら、シアンは"そういえばオーリス達は何食べてるんだろうな"とぼんやりと考えていた。