お仕事
夕食が済むと『幕を一つ空けたから』とこぶりな幕の一つが示された。
「三人一緒で構わないわよね? 二段ベッドが二組あるわ。中にあるものは好きに使ってもらって構わないし、向こうの大きな幕の中、お湯張ってあるから好きに入って」
周りが動き出したと思ったところで、七、八人が衿を伸ばして顔を隠すと目の部分だけが開いた頭巾の様な物を被り上着を着込んだ。
「ゆっくりしてってね」
その多くがシャトに声をかけ、シアン達に軽い挨拶を送り、つぎつぎに魔獣達の方へと歩いていくが、最後の一人はシアンとカティーナに声をかけた上に目を見るとどうやら笑いかけているらしい。
声からするとヤルーだろうか、子供か大人か、男か女かは何となく判るが、背丈と身体つきだけでは誰なのか判断がつかない。
「ヤルーさん、皆待ってますよ」
「はーい。シャトさんまたね」
「はい、いってらっしゃい」
やはりヤルーだったらしく、シャトをはぐしてぱたぱたと背中を叩くと手を振って去っていく。
「仕事なの?」
「たぶんそうなんでしょう。部外者には仕事のことを話しませんから私も判りません」
「へぇーちょっと意外。ここではどんな仕事受けるの?」
「基本的に出来ることなら何でも。商隊の護衛、野盗の制圧、あとは人の手におえない力仕事とか、そうゆうのが多いでしょうか…」
「獣遣いの傭兵団て見たことあっても近付いたりしないし、何やってんだろうなと思ってたんだけど、案外普通なのな」
「魔獣関連の仕事もありますが、基本的には文字通り傭兵団ですから」
「そっか。そりゃそうだ」
「しかし、この暗がりをどこへいらっしゃるのでしょうね…?」
カティーナは飛びたった魔獣達を見送っていたらしかったが、その姿が視認出来なくなると二人の方へと顔を向ける。
「夜目が効くとかある?」
「私たちですか?」
「いや、パートナーも含めて」
「それなら、割と。団員の中にも居ないことはないですが、ごく少数です。魔力を扱える方だともっと多いのでしょうけれど」
話ながら使っていいと示された幕の中に入ると、入口からすぐのところに光の魔石が吊してあり、明かりをつけた先には確かに二段ベッドが二台置かれていたが、どうやらこの幕を使っていた団員が他にばらけてくれたらしく、荷物の一部が置かれたままになっている。
それでもわざわざ持ち込まれたらしい素焼きの瓶にはたっぷりの水、机にはお茶を飲むためのセット、ベッドの上には替えのシーツと客として扱われているのがよくわかった。
「ぅわ…」
シアンは申し訳ないとの思いから声を漏らしたが、シャトは気にしないで良いと言う。
「お風呂、今の時間ならたぶん誰も居ません。案内しますから、順番にどうぞ」
「シャトは?」
「少し頭領のところへいってきます。戻りが遅いときには先にお休みになってください。皆夜明け前に起き出しますから、朝は騒がしいと思うので」
シアンはカティーナと二人でシャトのあとについて一度風呂のあるとゆう幕まで行き、中を確かめるとカティーナを残してシャトと並んで荷物を置いた幕へと戻った。
「じゃあ、また」
「うぃ。…なぁ、シャト…」
「何ですか?」
「いや。何でもない」
シアンは自分で、何を言おうとしたんだろうな、とこめかみを掻き、小首を傾げるように頭を下げたシャトを見送った。