呆れる
カティーナが野営地を離れる時にかけた声で目を覚ましたシアンだったが、カティーナが何を言ったのかは理解してはおらず、幕を出た先にオーリスしか居ないことに首をひねった。
「オーリスー二人は…?」
返事があってもシアンには解りはしないのだが、一点を見つめたまま普段の様に擦り寄ることもないオーリスにシアンは『シャトに何かあったのか?』と隣に並んで同じ方向に目を凝らす。
元々目は悪くないシアンだったが、"しないよりはましか"と強化量は微々たるものではあるものの魔力を目に集め見える範囲をくまなく見渡し、岩や木立以外に見える範囲には何もないことを確認した後でオーリスの顔を窺った。
オーリスはシアンが目に入っていない訳ではないらしく、シアンにむけて鼻を鳴らしその場に身を伏せる。
そしてしばらくするとふっと目を細め、安心した顔を見せた。
その様子を見たシアンは口を曲げてこめかみの辺りを掻き、問題はないと判断したのか、その場に腰を下ろすとオーリスに寄り掛かり大きな欠伸をする。
「とりあえず待ってればいいか…」
滑らかな毛並みに埋もれる様になったシアンは朝日に目を細め、そのままうとうとしながらオーリスの息遣いを感じていた。
「シアンさん」
「…んあ?」
いつの間にかまた眠っていたシアンはシャトの声で目をしばたき、その姿に顔を引き攣らせた。
「怪我してんのか!?」
「いえ、私の血じゃありません。…一緒に動く子が増えても構いませんか?」
「あ?」
何の説明もないままそう尋ねたシャトにシアンは話を聞こうとして、後ろに立っているカティーナの抱えた魔獣に気がついた。
包帯が巻かれたその身体を見て、シャトのあちこちに付いた血と言葉の意味におよその見当をつけたらしいシアンだったが、その更に後ろ、シャトが街で描いた魔獣の姿に目を止めると改めて外から見て理解が追いついていない事が判る顔をする。
「とりあえず、説明してくれない? シャトが問題ないって言うならその、子? 達? が一緒に行くのは反対しないからさ…」
傷をおして歩いてきた大きい方の魔獣に寄り添うシャトの代わりに、カティーナが見たものと聞いたことのあらましを伝えると、シアンは驚いているのと呆れているのが半々といった顔で眉間に深いしわを寄せた。
呆れているのはまたシャトが一人で行動を起こした事にたいしてなのだろうが、シアン本人はそのことに気がついているのかいないのか、シャトを呼ぶと『とりあえず、顔と手の血を落として着替えなさい』とまるで子供にでも言うように促す。
血が付いていることを当たり前のように受け入れていたシャトは、そこで始めて自分が汚れているのだと認識したらしく、手や服についた血を改めて眺め始めた。
シアンはため息をついて、まだ口をつけていない水筒の水を腰に下げていた布に受けると、シャトの方に放り投げ、カティーナの腕の中でおとなしくしている魔獣の顔を覗き込んだ。