ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

眠気

交代の時間になって起き出してきたシャトは相変わらず生気の無い顔をしていたが、カティーナは簡単な挨拶をすると『無理なさらないでくださいね』とだけ付け足し、オーリスを撫でて微笑んで、そのまま幕の中へと向かっていく。

最後に振り返って見たシャトは魔獣達の方へと視線を向けていたが、生気の無い顔の中で目元だけが微かに悲しげに歪んだように見えた。

そのことに動きを止めたカティーナだったが、何かを言う訳でもなく、シャトにも気づく様子は無い。

その代わり、シャトのそばに寄ったオーリスがカティーナを見つめ、"大丈夫だ"とでも言うように頭を下げる。

ティーナはそれに応えるように頷くと、もう一度シャトに視線を送って幕の中へと戻っていった。

 

夜明けが近付いても周囲にこれといって変化はなく、白みはじめた空にゆっくりと世界が色を取り戻し、ただただ静かな時間が過ぎていく。

 

そっと幕を出たカティーナは、今はもう火が落ちた焚火の跡のそばに伏せ、ゆっくりと周囲を見回したオーリスと目が合うと小さくお辞儀をし、シャトの姿を探すように歩き出す。

シャトの姿は魔獣達のそばにあり、地面に直接膝をつく形で小さな魔獣を抱え、頭を大きな魔獣の背中へと預けるように傾げている。

どうやら眠っているらしいシャトに、カティーナは少し驚いたようだったが、悩むこともなく幕の中から一枚の布を取って来るとシャトを中心に広げた布を優しく、出来る限り皆が入るように、と気遣いながら被せかけていく。

布が身体に触れてもシャトは目を覚ますことはなく、カティーナは静かにその場を離れるとオーリスに微笑みかけ、焚火の跡の魔石を拾い出した。

朝食の為に、と、再び魔石の上に細い枝を組み始めてたカティーナは小さな声を聞いた気がして顔をあげたが、シャトは眠ったままでシアンが起き出してきた様子も無い。

「…コーティ…」

間を置かずに再び聞こえた声の主はシャトで、寝言だろうか、とカティーナがしばらくそちらを眺めていると、いつの間にか昇りはじめた日に照らされ淡く染まった頬が呼吸に合わせるようにきらりと光る。

それは伝った涙の跡らしく、魔獣の背中にも濡れた跡が広がっていて、気をつけて聞くと伝わって来る息の音にもその気配があった。

「オーリスさん?」

静かに身を伏せていたオーリスはカティーナの声に応える様に鼻を鳴らしたが、それ以上何かをすることはなく、シャトの代わりのつもりなのかゆっくりと周囲を見回している。

 

ティーナが小枝の上にいくつかの薪を組み、鍋に水をはろうと立ち上がったところで、背後から『おはようございます』とかすれた声がかかる。

「おはようございます」

「すみません、眠ってしまったみたいで…。朝食の用意、今しますから…」

昨夜のような生気の抜けた顔ではなく、困ったように微笑んだシャトに、カティーナは"大丈夫ですか"と尋ねかけて口をつくんだ。

そしてその代わりに『手伝います』と返し、シャトが水や何かを用意するうちに魔石を使って火を起こし、果物を剥いていく。

シャトは時折眠そうに目を細めながら朝食の準備を進めていたが、シアンが起き出し、朝食が済んでもその様子は変わらず、何故かずっと眠気を引きずって居るようだった。