ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

帰路 4

大した時間眠ってはいないはずのシャトだったが、癖なのか間もなく夜が明ける、とゆう頃に目を覚まし、すぐにマナテとオーリスの様子を見に部屋を出る。

ティーナはその気配に目を開き、隣で寝ているシアンを起こさないように静かに靴を履きはじめた。

部屋の外はずいぶんと冷えているがマナテもオーリスもゆっくりと休んだらしく、欠伸をするシャトに擦り寄り、まるでその仕種を笑うかのように鳴いている。

「おはようございます」

「ひゃっ」

まだ二人は眠っているものと思っていたらしく、カティーナに声をかけられ、シャトは驚いて変な声を上げた。

振り返ったシャトは寝癖ではねた髪を押さえながら、

「おはようございます」

と頭を下げ、ぎこちない笑顔を見せる。

ティーナはその顔に首を傾げたが、特に何を言うでもなく、目が合ったオーリスの頭を撫ではじめた。

「お見舞いにいただいたものの中に果物もあったようですが、オーリスさんとマナテさんは召し上がりますか?」

シャトが答える前にオーリスは頭を撫でる手をぐいぐいと押し返し、カティーナの顔を目を輝かせて覗き込む。

「ごめんなさい。オーリス、だめよ? 二人の事は気にしないでください。大丈夫ですから」

「取っておいても悪くしてしまいそうですから、良ければシャトさんも」

そう言ってカティーナは荷物を持ってくると岩に腰を下ろし、中からいくつもの果物を取り出したが、オーリス達にあげるにはどうしたらいいのだろうか、とその手に乗せた果物を見つめ、シャトを仰ぎ見た。

 

くしゅん、と部屋の中に響いた自分のくしゃみでシアンは目を覚まし、微かに聞こえて来る話し声の元を探すようにきょろきょろと辺りを見回して、一人きりの部屋で大きな欠伸をする。

明かりか絞られたままの部屋の中、シアンは頭を掻き、緩んだ髪留めを外すともう一度欠伸をしながらブーツに足を突っ込んだ。

幕をひょいと上げて覗くと、膝の上に布を広げ、果物を切ってはオーリスに、マナテに、と差し出すシャトと、小ぶりのお椀からカットされた果物を口に運ぶカティーナの姿が見え、

「楽しそうだな」

とシアンは壁に寄り掛かる。

「おはようございます。シアンさんも召し上がりますか?」

ティーナが聞くと、こくんと頷いたシアンは荷物の上に乗っていた果物の一つを取り、ローブから引っ張り出したシャツの裾でごしごしとこすってそのままかじりつき、そして『おはようございます』と微笑むシャトに『おはよ』と一言だけ返して、手に食べかけの果物を持ったまま水場の方へと歩いて行った。

顔を洗い、髪をまとめたシアンは、すっきりとした顔で果物をかじりながら戻ってきたが、その左手には火が点っている。

「さすがに何もないと真っ暗だな」

と当たり前のことを言い、一人部屋の中へと戻ったシアンは魔石の光量を上げ、クラーナが持たせてくれた木の実と焼き菓子を取り出すとそのうちの一つを口に放り込み、残りを持って部屋の外に出る。

そして、

「どうせならしっかり食べてさっさと行こう」

と二人の間に腰を下ろし、適当に三つに分けたそれをシャトとカティーナに渡すと自分の分を黙々と食べはじめた。