帰路 3
周囲の熱が落ち着くと、三人は身体を休める為の準備にかかる。
「朝まで持つかね?」
シアンは地面に広げた幕に座り、その温かさを確かめるように壁に触れた。
入り口に下げられた幕の外ではオーリスに寄り添うようにして鞍を外したマナテも地に伏して居るが、幕の隙間から覗いたシャトに気付くと立ち上がって寄って来る。
「おやすみなさい。ゆっくり休んで。オーリスも、また明日」
そう言ってマナテの鼻先に触れ、幕を閉じたシャトはリュックの中のキーナから、何枚ものローブに幕に、果ては干し草までこれでもかと荷物を取り出していく。
「カティーナさん、固いと辛いでしょうから重ねて使ってください。必要ならまだありますからシアンさんも遠慮なく」
シャトは二人にはそう言いながら、自分はローブを一枚重ねただけで寝る準備は済んだとばかりに靴の紐を解きにかかる。
シアンはその様子に少し呆れたようだったが、カティーナと顔を見合せると立ち上がり横に積まれた幕をいっぱいに広げて重ねていく。
「ほら、シャトどいて」
シアンはそう言ってシャトの方にまでそれを広げると、ごろごろと転がって『上出来』と身体を伸ばした。
そしてシアンは寝転がったままシャトの方を向き、
「シャトもオーリスとキーナの他にパートナーがいるの?」
と尋ねるが、シャトは何故そんなことを聞くのかと疑問に思っているのか、眉を寄せて振り返った。
「マナテは親父さんのパートナーなんでしょ? 親父さん、最初見かけた時は大きな鳥に乗ってたから、そうゆうものなのかと思ったんだけど」
そう言われてたシャトは、脱いだ靴を丁寧にまとめながら『そうですね』と答えただけで、それ以上の事は話さない。
シアンは聞いてはいけない事なのだろうか、と思いつつ次の質問を投げかけた。
「パートナーってどうやって決めるの?」
「いろいろです。きっかけは何であれ、お互いに納得すればそれでいいとゆうか…」
「…パートナーになると何か変わるの?」
シャトは一瞬動きを止めたが、
「お互いがどこにいるのかがある程度分かるようになるくらいでしょうか」
と答え、いつもの布靴を履くと『水を汲んできます』と明かりを手に立ち上がる。
身体を起こして外に出て行くシャトを見送ったシアンの横で、それまで黙っていたカティーナが口を開いた。
「シアンさんの街にも獣遣いの方はいらっしゃったのでしょう?」
「居たけど話なんてしたことなかったからな。それに…」
「それに…?」
「…いや、何でもない。寝る。おやすみ」
さっさとローブをかぶって横になったシアンに首をひねりながら、カティーナも靴の紐を解き幕の上で足を伸ばす。
しばらくすると幕の外からマナテに声をかけているらしいシャトの声が聞こえ、カティーナはその声に耳を傾ける。
「落ち着かないなら少し歩いて来る?」
「ほんとに? 私もこっちで寝ようか?」
「そんなことで怒らないよ」
「大丈夫?」
「ありがとう、おやすみ」
幕を開いたシャトは柔らかい表情でオーリス達に手を振り、カティーナの視線に気付くとなぜか『ごめんなさい』と謝った。
「うるさかったですか?」
「いえ、そんなことは。マナテさん、眠れないのですか?」
「落ち着かないらしくて」
既に横になっているシアンを気にしてそこまでで会話を切り、明かりを落とすと、二人は真ん中にシアンを挟むかたちでローブをかぶる。
誰かが口を開くとゆうことはなかったが、その夜は三人ともなかなか寝付けず、薄明かりの中に寝息が聞こえはじめたのは既にずいぶんと夜明けが近づいてからだった。