ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

帰路 2

北へ向かう時に休んだ部屋へと曲がる前に、シャトはカティーナの荷物を一旦マナテから下ろし、少し待っていて欲しい、とオーリスとマナテを連れて先に行く。

残された二人はリファルナの描き出した光の竜や、そのあとに飛んだ本物の竜の事などをのんびりと話しながら、時々吹く強い風の音を聞いていた。

 

しばらくして戻ってきたシャトはうっすらと額に汗をかき、火照ったような赤い頬をしている。

「どうしたの?」

「マナテに頼んで奥を暖めてきたんですけれど、ちょっとやり過ぎたかもしれません」

そう言って額に張り付いた前髪をぱさぱさと払ったシャトの後ろでマナテはこふぅと口から炎を漏らし、甘えるようにオーリスに身体を寄せた。

オーリスは"仕方がないな"とでも思っているのか、特に避ける事もなく、三人が動き出すのを待っている。

「見てみたかったな」

シアンは自分のものと一緒にカティーナの荷物の一つを担ぐと、オーリス歩み寄り頭を撫で、それからマナテの顔の前にその手を伸ばした。

マナテがその手に顔を寄せて鼻先でずんと押し返すと、シアンは触ってもいいのか、とシャトがしていたように頬に優しく手を添えた。

「割と熱いな」

「さっきまで火を吐いてましたから」

それもそうか、と手を離したシアンは指先に火を点し、それをそのまま自分の口元に近付けるとふうーと息を吹きかけて大きな炎をなびかせて見せる。

それを見たマナテはシアンにじゃれつき、ぐんと顔を擦り付ける、とシアンは『いっ!!』と声を上げてのけ反り、その頬を押さえた。

シアンの頬には二筋の傷が走り、赤く染まった自分の手を見たシアンは"またか"と笑ってため息をつき、慌てたように荷物を探るシャトに『いい、いい』と手の平でゆっくりと頬を擦り上げる。

すると傷は見えるものの血は止まり、それを見たシャトは驚いたように目を大きくした。

「この前はびっくりしただけで、本当はこれくらいなら平気なんだ。まぁ私に出来るのは血止めと治癒力高めることくらいだけどさ」

マナテの顔と自分の手の平に付いた血を拭い、シアンは『思ったより人懐っこいんだな』とマナテの頬をぺちぺちと軽く叩く。

マナテは落ち着きなく足を鳴らしていたが、シアンが怒っていない事が解るとその鼻先をシアンの頬に寄せ、心配そうに小さく鳴いた。

 

暖めたのだとゆう奥に向かっていくと、周囲の温度が上がっていくのが分かる。

「ここの石、熱に強いんだ…」

部屋への入口が近づくとシアンは壁に触れ、その温度に眉を上げた。

「この先、ちょっと熱くない…?」

「やっぱり…」

困った顔のシャトにカティーナは『冷やしましょうか』と口にしたが、横からシアンがそれを止める。

「熱に強いっていっても急に冷やしたら割れるんじゃないか? 洞窟自体は冷えてるんだ、少し待てば大丈夫だろ。…でも、なんで温めたの?」

「オーリスは今日は部屋には入りません。二人とも入れるほどの広さは無いですし、マナテを一人にする訳にもいかないので」

オーリスにぴったりとくっついたマナテはシャトの言葉に短く鳴き、それに合わせるようにオーリスは鼻を鳴らした。

シアンはその場にどかっと座り二頭の様子を眺めていたが、また指先に火を点し、炎の形を変えるつもりなのかうねうねと動かしている。

「難しいんだな」

どうやらリファルナのように何かを象ることは出来るだろうか、と試したらしかったが、指先のそれはよくわからない形のまま、芋虫のようにうごめいていた。