帰路 1
シャトを乗せたマナテは強く翼をはばたかせオーリスの後を追って行くが、オーリスは何が気に食わないのかつれない態度で速度を上げる。
背中の二人は風こそそう感じないものの、その速さに、振り落とされるのでは、とオーリスの毛をしっかりと掴み、後ろを振り返った。
シャトは振り返った二人に小さく手を振ると、オーリスの速度を特に気にする様子もなく手綱の無いマナテの背で片手を鞍に添え、もう片方の手で翼の付け根を軽く叩く。
するとマナテは時々こふぅと口から火の粉を零しながらはばたきを緩め、速度を落とすとオーリスに向かって小さく鳴いてみせた。
先に洞窟に着いたオーリスは背中の二人を下ろすと、すぐに崖から跳びだし、シャトとマナテにつかず離れず一定の距離を保ちながら辺りを力いっぱい駆け回る。
「あれ、何してるんだと思う?」
シアンに問われ、カティーナは首を傾げたが、
「やきもちでしょうか」
といたって真面目に答えた。
「お待たせしました」
少し離れた場所に降り立ったマナテから飛び下り、並んで洞窟まで歩いてきたシャトはカティーナの後ろでつんとしているオーリスを覗き込んだが、オーリスの態度が変わらない事で困った顔になり、そのままカティーナを見上げた。
「カティーナさんの荷物、今日もまた増えてしまいましたし、父がマナテに荷を運んでもらうように、と」
マナテはシャトの言葉に合わせて頭を下げ、カティーナの横に身体を寄せる。
「鱗が鋭いので、それだけ気をつけて下さい」
カティーナは遠慮しようとしたが、その前にシアンが口を開き、シャトはそちらに向いてしまう。
そしてマナテのことを話しながら、地面に置かれていたカティーナの荷物の一つを手に取ると鞍の上に載せ、"もう一つはどうしますか?"といった風に再びカティーナを見上げた。
「すみません。マナテさん、荷物、お願いします」
カティーナがそう言って自分で荷物を鞍に上げると、シャトは鞍にかけてあった紐で荷物を留め、すでに用意してあった魔石に明かりをともすと『行きましょうか』と洞窟に向かって歩き出した。
が、鼻を鳴らしたオーリスにまた困った顔で振り返る。
「オーリスも隣においで」
シャトに言われてもオーリスがそばに寄ることはなく、いつの間にかシアン・シャト・マナテ、カティーナ・オーリスがそれぞれ並んで歩いている。
「オーリスは何で不機嫌なの?」
「私がオーリス用のベルトを忘れてきたから怒ってるんです。荷物運ぶくらい自分でも出来るのにって」
「昼間、マナテさん? に会ったときから不機嫌じゃなかった?」
「あぁ、それは…」
シャトが答えようとすると、オーリスはシャトの後ろからとんと鼻で押し、答えるのを阻止しようとして居るらしかった。
シャトは立ち止まる事はなかったが、
「私の事心配してくれてただけです」
とオーリスの頭を撫で、マナテの身体をぽんぽんと叩く。
そして、少し黙ったかと思うと、
「お二人は南に戻ってからどちらへ行かれるんですか?」
と問い掛けた。
シアンは『んー』と考えるように言って荷物を背負い直し、シャトに顔を向けると、
「特に決めて無いよ? でもまあ、これから寒くもなるし、どっちかって言うと南かな、なぁ、カティーナ?」
と後ろを歩くカティーナに声をかけた。
「行きたいところ、とゆうものは無いですから、ご自由に」
シャトは『そうですか』と前を向き、何を考えているのか唇を噛み、一点を見つめていた。