ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 16

ティーナ達が川を越えると、シャトはオーリスを抱きしめた。

「ごめんね。そばに居るから…」

シャトの言葉を受けたオーリスの毛が逆立ち、辺りの空気が動き始める。

それは魔術師達の家向かって集まり、小さな渦を作り遥か上空に吹き上がっていく。

辺りに漂っていた腐臭は薄れ、周囲の清浄な空気と置き換わる。

それに気付いたらしいカティーナ達は走り出し、勢いよく森へと駆け込んで行った。

「周りから風を…」

シアンが驚いたように声を上げ、シャトとオーリスのそばに寄ると、辺りの魔力と腐臭が薄まるのを待っていたかのように光を纏った精霊達が川に沿って押し寄せ、シャトとオーリスを護るかのように取り囲む。

『すこしだけ、たすける』

どうやらシャトには見えていないらしいが、何かを感じてはいるらしくオーリスを抱きしめた腕を緩め、辺りを見回している。

辺りの魔力が濃くなり、オーリスは心地良さそうに目を細め、鼻を鳴らす。

「暖かい」

シャトのこぼした声に、シアンが

「精霊達が助けるって、集まってきてる」

と教えると、シャトは"分かっている"といった風に微笑み、オーリスの身体に顔を埋め、『助けられてばかりだね』と呟いた。

 

「これ、全部罠の跡ですか…?」

森へと入ったタドリは辺り一面の傷や焦げ跡に表情を強張らせ、怯え混じりにそう口にするが足を止めることはなく、カティーナを除くあとの二人は感心したように振り返った。

「今回のことにお前が自らの意思で参加しただけでも驚きだったが、精霊の力を受け入れ嵐の中へと立ち入った上にこの様を見ても前に進むとはな…シャトを呼んで正解だったか」

「からかわないで下さい…それだけじゃないんですから。ただ…出来ること、は、したい、と思ったんです。そう思っても、やっぱり怖いですし、一人じゃ無理ですけど、カティーナさんもシアンさんもシャトさんも、皆さんも、一緒です…」

おどおどと答えるタドリに、前を行く二人は顔を見合わせふっと息を漏らした。

「我等も怖いさ。それに、一人で立ち向かうことばかりが強さじゃない。それでいいんだ」

「力を持って生まれたお前がその身体に見合った雄になるのを皆が期待している、ゆっくりで構わん、応えてくれよ」

タドリはその身を縮めながらも小さく頷き、シャトとシアンの顔を思い浮かべると、"頑張らなくては"とぎゅっと拳を固め自身を鼓舞するように強く息を吐く。

ティーナはそのやり取りを聞きながら、どこか遠い目をしていたが、後ろからかかった声に足を緩めると振り返り、"どうしたのか"と目で尋ねた。

「三人を埋葬出来る場所として話していたのはこの先で、浜から少し離れます。一度二手に別れましょう。私はカティーナ殿と参ります。あとの二人は埋葬の準備が済み次第家の方に」

ティーナが頷くと、タドリと若い一人が足を早めて別方向へとむかっていく。

魔術師達の家は近付いているが、オーリスの起こす風のおかげで腐臭はまだそれ程強くはならず、イマクーティも不快な顔を見せてはいるが、耐えられないとゆう事はないらしかった。

白く光っていたはずの雲はいつの間にか黒く立ち込め、森の中をより一層暗くする。

ティーナは、せめて埋葬が済むまでは、とタドリ達を想って木々の間からその空を見上げていた。