ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

第一部

出発の時

魔獣に追いかけられる夢を見て唸りながら寝返りを打ったシアンは、その振動で矢筒が倒れた音で目を覚ました。 まだ寝ぼけているのか、外から聞こえる動物達の声に"夢の続き"なのではと辺りを窺い、窓を開く。 空には雲一つ無く、ちょうど山から顔を出した日…

その夜

結局、精霊の蜜玉で映し出された風景について誰かが何かを話すことは無く、改めてお湯を沸かして淹れたお茶を四人はゆっくりと静かに飲み、荷物の用意するとゆうシャトにあわせてカティーナとシアンもそれぞれの部屋へと荷物を置きに行く。 明かりの要らない…

後押し

シャトがお茶を淹れ直す為に立ち上がると、カティーナは菓子を食べ終えた皿を下げようと後に続いた。 シアンは最後の一口を頬張り、皿の上に残った精霊の蜜玉をどうしたものかと悩んでいるようだったが、野菜を抱えて戻ってきたクラーナの姿にそれを口に放り…

行く先

シャトは首を捻ったシアンを不思議そうに見つめていたが、クラーナに促されて椅子に座るとカップに注がれたお茶の香りに目を細め、ふっと息を吐いた。 「皆出かけてるの?」 シャトはキリオや大叔父のパートナー達の姿が見えないから、とそう尋ね、家の外に顔…

休息

辺りに漂う甘く香ばしい匂いに、シアンは肺がいっぱいになるまで深く息を吸い、口元を緩めるとため息をついた。 迎えに出たクラーナは三人がオーリス達から下りるのを待ち、『お帰りなさい』と微笑んだが、少し心配そうな顔をしている。 「大変だったでしょう…

帰路 6

シャト達が森を抜けると辺りを一回りしてきたらしいオーリスも戻ってきたが、何故かカティーナの様子が変わっていた。 解かれた髪に淡い色の花冠、まるでレースのように繊細に編み込まれた草のケープ、その肩にはつややかな木の実の飾りが付き、手には摘んだ…

帰路 5

南に向かって出発した一行だったが、元々そう口数の多い方ではないカティーナとシャトに加えて何故かシアンまであまり口を開くことなく、時々オーリスやマナテの鳴き声にシャトが応える程度で、会話は殆どないままに洞窟の出口が見えてきた。 特に具合が悪い…

帰路 4

大した時間眠ってはいないはずのシャトだったが、癖なのか間もなく夜が明ける、とゆう頃に目を覚まし、すぐにマナテとオーリスの様子を見に部屋を出る。 カティーナはその気配に目を開き、隣で寝ているシアンを起こさないように静かに靴を履きはじめた。 部…

帰路 3

周囲の熱が落ち着くと、三人は身体を休める為の準備にかかる。 「朝まで持つかね?」 シアンは地面に広げた幕に座り、その温かさを確かめるように壁に触れた。 入り口に下げられた幕の外ではオーリスに寄り添うようにして鞍を外したマナテも地に伏して居るが、…

帰路 2

北へ向かう時に休んだ部屋へと曲がる前に、シャトはカティーナの荷物を一旦マナテから下ろし、少し待っていて欲しい、とオーリスとマナテを連れて先に行く。 残された二人はリファルナの描き出した光の竜や、そのあとに飛んだ本物の竜の事などをのんびりと話…

帰路 1

シャトを乗せたマナテは強く翼をはばたかせオーリスの後を追って行くが、オーリスは何が気に食わないのかつれない態度で速度を上げる。 背中の二人は風こそそう感じないものの、その速さに、振り落とされるのでは、とオーリスの毛をしっかりと掴み、後ろを振…

雨の後 19

オーリスは竜馬の呼び声に応えず上空からシャト達を見下ろし、辺りを跳び回ったかと思うと森の方へと姿を消した。 不服そうに鼻息を荒げる竜馬の頬に手を当て、シャトは『ごめんね、マナテ』と微笑みかける。 「オーリスと仲悪いの?」 「いいえ、仲はいいんで…

雨の後 18

カティーナ達が外に出るとシャトと一緒にオーリスと遊んでいた子供達が涙目のタドリを心配して駆け寄り、あっという間にタドリの周りが賑やかになる。 「ずいぶん子供達に好かれてるんですね」 「気は弱いけど、面倒見のいい優しい子だもの。それに加えて二重の…

雨の後 17

荷物の整理が済むと、三人は挨拶を終えたら一度ガーダの家に集まることにして二手に別れた。 ヒニャ達に会いに浜へと向かっていくシアンを見送り、シャトの案内で街を歩くカティーナは見舞いの品を預けてくれたとゆうイマクーティ達にお礼を言って回るが、行…

雨の後 16

翌朝、食事を終えて荷物の整理を始めたところでシャトと、マルートを含む三人の長老と二人の供、そしてガーダとタドリがカティーナとシアンを訪ねてきた。 無理に連れて来られたのか、タドリは背中を丸めるようにその身を縮めて俯いているが、カティーナの顔…

雨の後 15

星の輝く夜空に大きな影を見たような気がして、シアンは辺りを見回している。 レイナンとの話はシアンからはほとんど何も言うことなく終わり、ウラルの代わりに魔石を渡しに来たガーダと入れ替わるように出て行った後ろ姿を見送ることもなく、シアンはこの数…

雨の後 14

食事が終わってしばらくしてウラルが戻ってきた。 ただ、隣にシャトの姿はなく、ウラルの表情も何となく曇っているようにも見える。 ちょうど二人分の食器を持って一階へと下りたシアンはウラルのその顔を見て 「シャトは?」 と瞳を覗き込むようにしながら声…

雨の後 13

先に食事の用意をするとゆうウラルを一階に残し、二人が二階に上がるとカティーナが扉を開けて出迎えた。 相変わらずの裸足にシーツを纏った姿だったが、編み上げられた髪を見るにずいぶんと腕を動かせるようになったらしい。 腕に巻かれた包帯が替わってい…

雨の後 12

タドリが少し落ち着いたところでシアンはその腕に触れ、治癒力を高める様に魔力を込めた。 そしてそれ以上自分が残っていても出来ることはないだろうと、その場を後にし、リファルナの元へ向かったが、耳に残ったタドリの泣き声に気を取られていたらしい。 …

雨の後 11

居心地の悪そうなシアンにシャトは少しかすれた小さな声で『おはようございます』と言って手に触れたローブをきゅっと掴む。 「ヒュアさんからタドリのところにシャトがいるって聞いて、家教えてもらったんだ。…タドリは?」 シャトは顔をシアンの方に向けたま…

雨の後 10

リファルナの事で騒いでいる一部を除けば、北で起きていた異変に対する不安が薄れたのか街の雰囲気は明るくなっていた。 中にはオーリスと並んで歩くシャトに声をかけたかと思うと『カティーナに届けて欲しい』と果物や菓子などを持たせてくれる者もいて、シ…

雨の後 9

ガーダの家が近付くと、二人を包むように風が吹いた。 「オーリスね」 リファルナはその風を纏ったままシャトの先に立ってガーダの家の戸を開くと、 「おはようございまーす」 と大きな声をかける。 奥からかつかつと靴が床に当たる音が聞こえ、リファルナは『お…

雨の後 8

薄曇りの空の下、ガーダとウラルはカティーナとシアンが泊まっている家へ朝食を届けに向かうその途中でリファルナのところに寄った。 ノックをするとすぐに『はーい』と声が聞こえ、軽い足音のあとで勢いよく扉が開く。 リファルナは片手には分厚い本を持ち…

雨の後 7

その日の夜遅く、ガーダの家にリファルナとレイナンが集まっていた。 群れの皆はすでに寝ているのか、家の中は暗く静かで、三人が集まった部屋でリファルナの発する柔らかな光だけが微かに外に漏れ出ている。 「カティーナに会ってみてどうだった?」 ガーダの…

雨の後 6

開いた扉から顔を覗かせたのはガーダで、その後ろに人間が二人立っている。 一人は玉虫色に輝く髪を短く整えた背の高い女性で、一人は濃い灰色の長い髪を一つに括った細面の男性、シアンはすでに顔を合わせていたのか、椅子から立ち上がり『どうも』と短い挨…

雨の後 5

夜が近付き空が紫色に染まったころ、明かりを持ったシアンがカティーナの休んでいる部屋の扉をノックした。 すぐに『どうぞ』と声が返り、シアンは扉を開けて中を覗く。 包帯の巻かれた身体にシーツを羽織り、ベットに腰掛けたカティーナはシアンを見て軽く…

雨の後 4

聞こえたノックに返事をし、カティーナは身構える様に表情を硬くした。 「入って構わないか?」 顔を覗かせたガーダに少し詰まった声で『どうぞ』と答えたカティーナは、身体を起こそうとしたが、途中で断念し、横になったままでガーダに視線を向ける。 ヒュア…

雨の後 3

カティーナは精霊を通して見た光景を不思議な気持ちで思い返す。 自分を抱えて泣くタドリ、濡れた地面に座り込むシャト、そのそばで立ち尽くすシアン、心配そうなイマクーティ達とオーリス。 そしていくつもの精霊の姿。 「ご心配をおかけしたみたいですね…」 …

雨の後 2

「うん、マルート様に自分は丈夫って言っただけのことはあるのね。傷の回復が早いみたい」 赤毛のイマクーティは微笑みを絶やすことなく、包帯の下を確認すると一歩下がって改めてカティーナの顔を見る。 「昨日もここに来たんだけど、貴方は眠っていたから"は…

雨の後 1

ガラスのはまった窓越しに差し込んだ朝日で、白いカーテンが光っている。 二台並んだベッドの片方、柔らかそうな布に包まれた身体が微かに動いたかと思うと小さな呻きをあげ、眉間にしわを寄せながら目を開いた。 布から覗く右肩には包帯が巻かれている。 解…