ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

優しい嘘

しばらくの間オーリスを抱きしめていたシャトは顔を離すと赤い瞳を見つめ『ありがとう』と微笑み、カティーナの近くまで行き再び頭を下げる。

「ご迷惑おかけしたみたいで、すみませんでした。幕まで張っていただいて」

「いえ、私は何も。ゆっくり休めましたか?」

ティーナの言葉にほんの少しばつが悪いように俯いたシャトだったが、微かに目元を緩めると小さく頷いた。

「よかったです。シアンさんと話して最初に野営地を探そうとした森から少し東へ動いたのですが、ここまではオーリスさんが。今もシャトさんの代わりに、と皆さんで見張りに付いてくださるとゆうことで…」

「はい。今オーリスから…。食事や水のことを気にかけていただいたみたいで、ありがとうございました。何かお仕事は見つかりましたか?」

明かりを挟んでカティーナの斜め前に腰を下ろしたシャトの右隣りにはオーリスが、そして反対側にはギークが身を伏せ、カティーナに尋ねながら、シャトはオーリス、ギーク、そしてまだ眠っているイミハーテを順番に優しく撫でる。

ティーナは膝の上に広げていた作りかけのローブを畳み、シャトに撫でられて目を細めるオーリス達につられるように微笑んだが、そのあとで首を横に振る。

「今は外の者を受け入れる感じではなさそうだとシアンさんが」

ティーナがそう言うとシャトは『そうですか』と西を向くように振り返ったが、オーリスは"少し東に来た"とゆうこと以外は伝えておらず、何も知らないらしいシャトはそれ以上の事を尋ねることはなく、カティーナのローブに視線を移す。

「進みましたか?」

「ええ、大分。針を持つのは久しぶりだったのでなかなか進みませんでしたが、少しずつ慣れて手が動くように…。それでもまだかかると思います」

膝の上のローブに手を添えたカティーナはそう言うと荷物の口を開き、そこにローブをしまおうとしてふと顔を上げた。

「姿が見えませんがキーナさんは?」

「リュックの中で休んでいるみたいでしたが、何かありましたか?」

「そうなんですか…。見張りにつく、とおっしゃっていた時にキーナさんもいらしたのですが、いらっしゃらないことに今気がつきました」

ティーナの言葉にくすくすと笑ったシャトは、

「カティーナさん、左向いてみてください」

と言ってカティーナの左側の地面を指差し、首を傾げるようにして目を細める。

シャトの指の先、カティーナが見下ろした地面にはじとーっとカティーナを睨むように瞳を細めたキーナが居て、カティーナは驚いたようで目を丸くした。

「キーナ、おいで」

シャトの声にぱっと姿を消したかと思うとキーナはすぐにシャトの膝の上に現れ、不機嫌そうな顔のままシャトに擦り寄ってはちらっとカティーナを見る。

「この子、音なく動くので、今みたいなことは良くあるんです。でも気付いてもらえなかったりすると嫌みたいで…。ほら、キーナそんな顔しないの」

「すみません、キーナさん。…キーナさんの気配はとても読みにくいみたいです、これから気をつけますね」

律儀、とゆうのだろうか、そうキーナに声をかけたカティーナはキーナが自分の方を見るのを待ち、頭を下げると改めて『すみませんでした』と言う。

キーナはもぞもぞとまたシャトの方を向いてしまったが、カティーナに対しての不機嫌な態度は消え、ぱちくりとシャトを見上げている。

「カティーナさん、ありがとうございました。見張り、私もここに残りますから、休んでください。この子達のこと気にして下さったのでしょう?」

「いえ、きりのいいところまで、と思っていただけなので、お気になさらず」

ティーナがオーリス達を気にしていたのは間違いなかったが、それを本人が口にすることはない。

ただ、そのことはシャトをはじめオーリスにもギークにも伝わっていて、シャトの隣でカティーナを見詰めていた二匹は、カティーナのそばに寄ると並んで頭を下げた。

そのあとでシャトを振り返ったギークが低く鳴くと、シャトは困ったような表情を見せたが、少し悩むと微笑んで頷く。

「カティーナさん、イミハーテのこと起こしてあげてくれますか? 私は今日は起きなかったことに。少し声をかければ目は覚めると思います。幕の中で私も起きていますから、カティーナさんはもう休んでください。ながながとすみませんでした」

「…そういえば、イミハーテさん張りきっていましたね…解りました。シャトさんが戻られたら声をおかけしますね」

「お手数おかけします。ゆっくり休んでください」

端から見たなら妙に映るだろうやり取りをしてシャトは幕に戻り、カティーナは少し待ってイミハーテに声をかける。

イミハーテは声に反応して翼を震わせると、ゆっくり顔を上げ、自分の状況を確認しているのかギークやオーリス、そして周りの様子をぽやぽやと眠そうな目のままで見回し、大きなあくびをする。

欠伸のあとでカティーナを見たイミハーテは、シャトのことに気がつくこともなくゆっくりと瞬きを繰り返し『みはりー。こたい。おやしゅー』とまるで手を振るように、翼を細かくふってみせた。