ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ことば

小さな生き物が動く気配は時間とともに静まり、西にもこの場所から判るような動きはない。

夜明け前の白み始めた空を見上げたギークの上で、少し眠そうに瞬きを繰り返していたイミハーテはぱさっと布の動く音に振り返り、にぱっと笑うと大きな翼を広げてギークの背中を強く蹴った。

靴を履くために屈み込もうとしたシャトは慌てて身体を起こしてその胸にイミハーテを抱きとめる。

「はよー。しゃっと。あさー」

「おはよう、イミハーテ。眠っちゃってごめんね」

「みはりー。したー」

くくっと喉を鳴らしてシャトの頬に擦り寄ったイミハーテは大きな瞳を笑うかのように細め、シャトはその擦り寄ってきた頭に手を添えて優しく撫でる。

「代わりに皆で見張りしてくれたの? ありがとう。眠くない?」

「がばたー」

「うん、ありがとう。朝ご飯の用意するから待っててね」

抱えたイミハーテをギークの背まで運び、オーリスとギークにも顔を寄せる様にして挨拶を交わしたシャトはいつものように火や水の用意をしていくが、そのあとを付いて回るギークの背中ではイミハーテがシャトを相手に言葉を練習している。

「しゃっと、ねむいー、ない」

「眠くない」

「ねむーくなーい。よいー、するー」

「用意 を する。用意をする」

「よいーをするー。よいー? よーいー」

しばらく続けているうちにカティーナが起きだし、シャトと顔が合うと微笑んで『おはようございます』と声をかけ、それからオーリス達にも挨拶をした。

「かてーな。はよー。ごはんまだー、でき…でき? にゃーい」

「おはようございます。まだ早いですから。見張りお疲れ様でした」

「しゃっと、なで? したー」

「何でしょう、なで?」

「撫でてくれた」

「なで、て、くれたー」

「あぁ…。よかったですね、イミハーテさん」

「あーいぃ」

イミハーテは相手が増えたのが嬉しいのか、シャトとカティーナに交互に話しかけ、ギークとオーリスの背を行ったり来たりと忙しなく動く。

「かてーな」

「何でしょうか?」

「かてーなさん。しあんさん。いみはてさん」

「イミハーテ、自分にさんはあんまりつけないと思うし、名前を呼ぶのは用がある時にしようか」

「あーい。しゃっとさん、わかるー」

「わかりました、ね」

「わっかりまっしたー。かてーなさん、あさー、はやーいー?」

「今はまだ早いですね、そろそろ日が差して来るのではないでしょうか」

「ひーちがうー。かてーなさん、あさー、はやーいー?」

「私ですか? そうですね、でもシャトさんも早いでしょう?」

「しゃっとさん、おこすー、するー」

小枝を魔石の上に組んでいたカティーナは手を止めてイミハーテが何を言おうとしたのかを考えていたが、シャトに尋ねようかと振り向いたところで『だぁーっ!!』とシアンの叫び声が聞こえ、何かに慌てた様に駆けていくシャトに続いて立ち上がる。

先に幕の前についたシャトは声をかけるのとほぼ同時に入口を開き、困っているのと怒っているのが半々、といった顔でその中の一角に視線を落とした。