ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

夜の森

ティーナはシアンの言葉の後で同じように辺りを見回したが、森の中、とゆうものをよく知らないカティーナにはシアンが何を考えているのかが分からなかった。

「シアンさ…」

「じゃん!! じーあーーん! じあ”ん!! しゃん!」

ティーナが口を開きかけたところでもう聞き慣れたイミハーテの鳴き声が聞こえ、二人は立ち止まってその声を追うように上を見上げた。

「イミハーテ! ここだここ!」

「しーあーん! かてにゃ!」

「何だ? 迎えに来たのか?」

木の隙間からばさばさっと、シアンを目掛けて下りて…とゆうよりは落っこちて来たイミハーテをどうにか受け止めると、シアンはその目を覗き込んだが、イミハーテはそれ以上何も言わずにぱちくりと大きな瞬きを繰り返しては顔を南に向ける。

「シャトは?」

「ちゃっと、でむる」

「でむる? …一人で来たのか?」

「ぎ。しあーん。かてにゃ」

言葉は話せなくともオーリスの方がまだ言いたいことがわかる気がする、と、苦笑いをしたシアンは、『あっち行けば良いのか?』とイミハーテが顔を向ける方へと進路を変え、暗い森の中を進んでいく。

「ちゃっと、でむる。おーりゅす、あでゅく」

「これ何て言ってるんだと思う?」

「おーりゅすとゆうのはオーリスさんのことだとは思いますが、他は…」

「ちゃっと、でむる。おーりゅす、ぎゃんびゃ…ぎゃんびゃ、ぎゃんばりゅ。ぎゃん、びゃー!! ぎゃん、ばりゅ」

「ぎゃんばりゅ…がんばる?」

「ぎー」

「あ、あってるっぽい…。オーリスが頑張る?」

「ぎー」

「何を?」

「あでゅく」

今日一日、もっといえば別れてからの短い時間でイミハーテが言葉を話そうとするようになった事を気に止めるより先に、イミハーテが何を言いたくて、何故一人で迎えに来たのかを考えはじめた二人だったが、進むごとに混む木々と刻々と暗くなる空に、明かり無しで歩くのは危険過ぎる、と一度立ち止まり、それぞれが荷物の中から魔石を取り出す。

「シアンさん、あそこ…」

明かりをつけようとした手を止めたカティーナは目の端で何かが動いたのを感じて森の奥をじっと見つめ、そこに動く明かりに気付くとシアンに耳打ちするようにして身を屈めた。

「おーりゅすー! ぎーくぅ!!」

しかし大きく鳴いて、身を屈めたカティーナの背を駆け上がるようにして羽ばたいたイミハーテは木々を軽々と越え、明かりに向かって木々の上を飛んで行ってしまう。

その姿をぽかんと見送った二人は、しばらくすると顔を見合わせ、躊躇いながらも明かりをつけた。

こちらの明かりも見えているだろうが、森の奥の明かりはゆらゆらと同じ場所で揺れ続け、近付くことも遠ざかることもない。

そのうちに二人を呼ぶようにイミハーテの声が聞こえ、『シャト達らしいな』と二人は木の根や草に足を取られないようの気をつけながら足早にそちらへと向かって行った。

 

「…。シャト眠ったのか…」

明かりをくわえたギークの傍に身を伏せたオーリスの背中には寝息を立てているシャトの姿があり、それを見たシアンが、今日はここでいいだろう、と近くの倒木に腰を下ろそうとするとギークが寄ってきてその身体をぐいぐいと押す。

「おーりゅす、いぎぃたい。ここ、ちゃっと、やーぁ、だっ」

その背中ではイミハーテがシアン達に何かを伝えようと一生懸命鳴いていたが、そのうちにシアンはその意味が解ったのか、『シャトにこの森見せたくないんだな…』と呟くと、イミハーテとギークの頭を撫でて頷き、

「カティーナ、今日はもう少し先まで行こう」

と言いながら、オーリスに向かって眉を寄せながら微笑んで見せた。