ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 25

「戻りました」

チルダから借りた袖をシアンが眺めて引っ張って明かりに透かしてとしているうちに扉が開き、籠一杯の花を抱えたシャトが姿を見せた。

「お帰り。大丈夫だった?」

「カティーナさんを困らせないようにと言ってはきましたが、本を読んでもらうのが嬉しいらしくて…」

人前で見世物に出来るような芸は持っていないから、と舞台に上がることを頑なに拒んだカティーナとイミハーテ達についているつもりと言っていたシャトが役割を入れ替えたことで、裏方にオーリスとキーナ、そして舞台にはどこから連れて来たのか動物達までが加わり、風を使ったちょっとした演出が施されたり、舞台のあとで子供達が動物達をもう一度見たいと集まって来たり、ことのほか見世物としてプラスになったようだったが、イミハーテ達と森で留守番をしているカティーナはカティーナでどうやらうまくやっているらしく、シャトの持っていた本をたどたどしくもイミハーテ達に読み聞かせているとゆう。

「夜の分の花も摘んでこられましたし、何かお手伝いすることがあれば…」

「私達の服はとりあえず出来ましたし、シアンさんは上を脱ぐとゆう事ですが、シャトさんも服、何か少しでも替えますか?」

「このままではいけませんか?」

シャトの着ている服はアーキヴァンとマチルダのもので、ゆったりとしたシャツとショートパンツとゆう格好、普段とはまた違った印象になっている。

ただ、シャツもパンツも光沢のないごく普通の生地で、夜の舞台で人目を引くかと尋ねられれば誰しも首を横にふるだろう。

チルダとシアンは揃ってシャトの服装を眺めたが、脚はすでに出ていて、華奢で肉付きの薄いシャトを脱がすのもまた違う様な気がする、と首を捻る。

「普段の服以外に何持ってる?」

「団の制服くらいです。飾りの付いた赤い上下ですが私のサイズではシャトさんには大きすぎるでしょうし、舞台で着るのはあまり。アーキヴァンも普段着以外は昼着たワンピースとこれくらいで…」

「シャトは?」

「陣で皆が着ていた服が一揃い」

「あぁ、あれか」

ぴったりとした黒いシャツ、腰を太い紐で何重にも巻いたゆとりのあるズボンの裾は靴の紐で押さえられて膝下で絞られ…とその格好を思い出していたシアンは『それはそれで…』と頷き、手の中の濡れた袖に視線を落とす。

「シャツの腕に赤い布でも結べばそれらしくなるんじゃないか?」

『どんな格好なんですか?』と尋ねたマチルダに着替えた方が早いだろうとシャトは部屋の奥へと姿を消したが、シアンの意識は再び手の中の袖に向かい『これも高いの』とそれをぴんと張ってマチルダに向ける。

「この種の布の中では物が良いので。ただ、それでもシャトさんの物と比べると十分の一程度でしょうか」

シャトの着替えを待つ間、シアンはその布についていろいろと尋ねることにしたらしかった。