ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 26

「どっちも同じ糸なんだろ?」

「どうなんでしょう、国の方では赤い糸は採れないようですし、これほど糸の質が揃っているというのも高値がつく一因でしょう。白い糸より更に丈夫で、魔力への耐性もこちらの方が高いみたいですね」

「なぁ! シャト! これって元々この色なんだよなぁ?」

「はい。未熟なファタナに紛れる為の色みたいです」

シャトの答えにシアンが首を傾げる隣でマチルダとアーキヴァンも疑問の浮かぶ顔をしていて、シアンは二人の顔を窺い『どうしたの?』と口にする。

「ファタナとゆうのは果実の名前ですよね。果実のなる木につくのですか?」

チルダはシャトに投げかけるように尋ねたが、そもそも虫がはくこと以外糸について知らないシアンはまた首を傾げる。

「北では他の木に…?」

シャトはシャトで家の周りで採れる糸の事しか知らないのか、マチルダの問い掛けに問い掛けで返し、着替えが終わると抱えた荷物に靴を乗せた状態で戻ってきた。

「確かにこれはこれで…」

シャトの姿に頷いたマチルダだったが、振り返った先のシアンの顔を見て糸の話へと戻っていく。

「つくのは実がなるような木ではなかったはずです。街からすぐの場所でも採れるので、落ちたものを子供達が遊びながら集めて、お小遣に。あとは洗って糸の質でより分けていくみたいです」

「落ちたものを拾って洗うのは同じですが、糸はそのまま紡ぎます。より分ける事はありません」

「…何もせずこの質に?」

驚いたマチルダが改めて布をまじまじと見つめた事で会話が途切れ、シアンはそこで『そもそもこれってどうゆう糸なの?』とそれぞれの手に持った赤と白の布をひらひらさせながらシャトへと顔を向けた。

「どうゆう…? 虫の巣とか、そうゆうことですか?」

「そうそう、落ちたとか何とか言ってたけど蜘蛛の糸とかとは違うんでしょ?」

「えっと、糸をはくのは蝶のような虫なんですが、番になって二匹で一つの巣を作ります。北での事はわかりませんが、ファタナが色付き始める頃にファタナと同じくらいの大きさの丸い巣を枝先にかけて、そこに卵を。この色…まだ色の薄いファタナは酸味も苦味も強いのでそれを狙う者はいませんから、そのための色なのだと思います。巣には上の方に小さな穴が空いていて、そこにファタナの葉で栓をして…そのうちに子供がその穴から出入りするようになるんです。枝を伝って葉を食べて、穴を出入り出来ない程に大きくなると、自分で枝と巣を繋ぐ部分を切り離して巣と一緒に地面に落ちて、それで土に潜るみたいです。一つの巣は必ず二本の糸で出来ているのが特徴でしょうか」

「つく木の種類は違うようですが、番になって巣を作るとゆうのは北でも同じです。元が子のためにはかれた糸である事と、水との馴染みが良く汗を良く吸って、汚れ落ちがよく乾きも早くて丈夫、それに肌触りがなめらかで柔らかい事もあって子供が生まれるとこの布で仕立てた肌着を贈るのが慣習になっています。赤い布をそうして使うとゆう話は聞きませんが、同じような慣習がシャトさんの故郷にもありますか?」

シャトのあとに続いたアーキヴァンは最後にそう尋ね、あらわになった肩を隠そうとドレスの上から寝る時に使う上掛けを羽織る。

「それぞれの家で織りますし、贈る…とゆう事はしないと思いますが、肌着として着ることは多いと思います」

チルダは自分の腰に付いた赤い布をまじまじと見下ろしていたが、話が一通り済むと、気を取り直すようにふるふると頭を振り、シアンに向かって『手合わせをお願いしても?』とレイピアを手に取った。

「そういやそんなこと言ってたっけ。早くしないともし何かあった時に直せないな。早速やるか」

部屋を出る二人を見送ったシャトとアーキヴァンは、顔を見合わせるとどちらからともなく少し困ったような顔で笑う。

「合わせましょうか」

「お願いします」

窓の外で動き回るマチルダとシアンを横目に、シャトは笛を手にし、アーキヴァンは深く息を吸い込んだ。