ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 19

「北へ向かう道の途中にいくつか洞窟があるのですが、つい最近立て続けに崩落が起きて通れないんだそうです。復旧出来るかどうかもわからないとのことでしたのでここまで」

少年の後ろから地図を見上げたシアンは『災難だったな』と言いながらエマナクから西に向かって街道をたどるように視線を動かし、そのあとで道の描かれていない空白地帯を眺める。

「ここって何もないの?」

誰を相手に尋ねたのか判断がつかないシアンの言葉に反応したのはシャトで、地図を見上げ『その辺りの森に人の村はありません』と口にするとマチルダの方を向く。

「…あの、お二人さえよければ…街の近くまでお送りしましょうか?」

明らかに驚いているマチルダの後ろのアーキヴァンの瞳は髪に隠れて見えないのだが、やや開かれた口元からはマチルダほどではないが驚いているのが伝わって来た。

「…すみません」

その表情を見たシャトが謝るとマチルダははっとしたように首を横に振り、それに続いて、嬉しそう、とゆうよりは、安心したような顔を見せる。

「…お気持ちは、とても、嬉しいです。ですが、あまり早く着いては勘繰る者も出るでしょうし、ご迷惑をおかけすることになりかねないので…。お気持ちだけいただいて、歩いて戻ります」

チルダの答えにシアンとカティーナはやや疑問を持ったようだったがシャトとマチルダ達の間ではそれ以上の話にはならず、地図の方を向いていた少年が振り向いたことで皆の視線がそちらを向いた。

「…僕、何かしましたか?」

少年は集まった視線に少し戸惑ったようだったが、そのなかでも渡されたメモをマチルダに返し、数字の書き込まれた別のメモを見せながら『今回の料金ですが…』と仕事は忘れずにいる。

少年と少しやり取りをしたあとで、マチルダが硬貨を数えていると男が戻り、何も言わぬままその手の中に重なったはぎれのような布をシアンに渡したかと思うとまた外へと出て行った。

シアンはシアンで黙っていたが、そのはぎれの一枚一枚に目を通していく。

「片っ端からやるか?」

「出来そうな事ならそれで構いません」

「皆さんも仕事探しですか?」

少年に硬貨を渡したマチルダの問い掛けに『あんまり良いもんにあたんなくてなぁ』と返したシアンだったが、少し間を置いて『も?』と顔をあげ、マチルダ達を見る。

「旅程がずいぶん長くなりましたから」

そう答えたマチルダの頭の上から足の先までを改めて眺めたシアンはシャトに向かって

「しばらく街に居ることになるだろうけど、昨日と同じ辺りで野営しながらって事でいい? それでいいならイミハーテ達のこと気になるだろうし先に戻っても…」

と唐突に口にした。

「構いませんか?」

「オーリスに任せて来たんだろうけど、最初からイミハーテ達についてるってからって、そうゆう話だったろ?」

「そうでしたね、皆さん待ってらっしゃるかもしれませんし、シャトさんは先に戻られた方が」

ティーナがシアンに続いてそう答えると、シャトはちょっと考えるように俯いたあとで『そうさせていただきます』と頭を下げ、マチルダ達に挨拶をすると一人でも戻れるからとそのまま水鏡をあとにする。

その背を見送ったシアンは手の中のはぎれを何枚かマチルダに見えるように差し出し、

「さて、マチルダ、相談なんだけどさ、この辺の依頼一緒にどう?」

と真面目な顔で尋ねた。