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反応の薄い大きい方の魔獣眺め、首を傾げたシアンは『どっちも雌? いや…女の子?』とシャトを見上げ、手を伸ばして長く垂れたオーリスの耳に触れる。
「いえ、こっちの、子…本当は"子"なんて歳じゃないみたいですけれど、男性です。イミハーテにとってはお友達ですもありますけれど、それと同時に父親のような…」
「おじさんなのか…見た目じゃわかんないもんな…。カティーナ、何かないの?」
「私ですか? …私も、名前は…よくわかりません」
「イミハーテは今までどう呼んでたんだか」
オーリスは嫌がりもせず、むにむにとシアンの手の中で弄ばれる耳を覗き込むように首を伸ばしたが、周りがすぐには動き出さないようだと見るとシアンを起こすように立ち上がり、その正面に回ってその手元に頭を擦り付けた。
「何だ? 耳触られるの嫌だった?」
「どうせ触るなら耳じゃなくて頭撫でて欲しいみたいです。さっきしてたみたいに」
「ん。よしよし、じゃあ力一杯…」
わしわしとオーリスを撫で始めたシアンは、鉱石のような質の無骨な鎧のような肌、岩を砕くためなのか顔を覆うような大きく硬いこぶ、すり鉢のように細かな溝の入った歯が覗くがっしりとした顎を持つ魔獣とイミハーテを見比べていたが、
「どうせならさ、イミハーテがつければいいじゃん。呼びやすいように」
と言って"どうなの?"と尋ねるような視線をシャトに向けた。
「イミハーテ、今のわかる? 今度はあなたが名前をつけてみたら、って」
「ぐぎぃ」
「ね?」
何を答えたのか、イミハーテが短く鳴くと、大きい方の魔獣もそれを望んだようで、いつのまにかまた自分の背に乗っているイミハーテを振り返るようにしながら応えるように低く鳴き、ゆさゆさと背中を揺する。
その背に爪を立てて掴まっていたイミハーテは、大きな目を細めたり丸くしたりしながら頷くように首を振った。
「何か話したの?」
「今一生懸命考えてます。もともとは名前、とゆう考え方がなかったらしくて、難しいみたいですけれど」
ふっと笑ったシャトはイミハーテともう一方の魔獣の頭を撫で、『ゆっくりでいいよ』と歩き出す。
魔獣達はその横に並び、オーリスの耳を掴んだシアンはその後ろ、カティーナはシアンからオーリスを挟んだ反対側につき、前を行く魔獣の背で時々翼をばたつかせ首を左右に傾げるイミハーテの姿を見つめていた。
「何見てんだ?」
「いえ、何でもありません」
そうは言うのものの、カティーナは何かを考えているように眉を寄せ、黙ったままで歩いていく。
「ぎー」
「んー、名前は名前、呼ぶ時は別の時もあるかな…」
「ぎぃー。ぎぃ。ぎー」
「ぎぃー? ぎぃ? ぎー?」
「…え、シャト…?」
「はい?」
「どうしたの?」
シャトは何を尋ねられたのか分からずに足を止め、目を丸くして首を傾げたが、オーリスが一声鳴くと、ぱちくりと二度まばたきをして『あっ』と納得したような声を出した。
「イミハーテが"ぎぃー"を名前にしたいって言うんですけれど、今はぎーだけだとこの子にも普段の声と区別がつかないかな…と。それで何かないかな、と思って」
「あ、あぁ。ぎー」
シアンは納得したような声を出したのに続いて、何と言っていいか分からずに顔を歪めるように笑う。
「それは、なかなか難しいな。"ぎ"の音に何か他の音くっつけるとか?」
「じーあ”ーん”ーぎー」
「なんでだよ!?」
言われた事がわかったのかそれに従って音をくっつけたイミハーテはシアンに突っ込まれて不機嫌そうに鳴き、それをあやすかのように魔獣が身体を揺する。
「本当に親子みたいだな…」
その様子に呟いたシアンは何故か眉を寄せていたが、イミハーテは目をぱちくりさせてシャトに向かって何か尋ねているのか何度も鳴く。
「そう、親子。うーんと、チチ? オトウサン? あとは…イークィク?」
「ぎー、ぐぅ…い"ーぐ、いぐぅ。ぎーぐっ!! ぎーくぅ!!」
「ギーク?」
「なに、決まったの?」
「ぎーくぅ! ぎーくっ! ぎーぐっ…!!」
何度も呼ぶイミハーテをまたあやすように身体を揺する魔獣の表情に大きな変化は見られなかったが、それでも嬉しいようで 、低く、限りなく低く、それでいてとても優しい、包み込むような声を辺りに響かせた。
「決まりみたいだな。よろしく、ギーク、イミハーテ」
「しーあーんー。じあん。よじょー」
浮かれたように空に舞ったイミハーテをシャトは笑顔で見上げ、シアンもこめかみをかりかりと掻きながら歯を見せたが、そのとなりでカティーナだけはまだ眉を寄せた顔のままでその空気から一歩外側にいるような、何処か虚ろな目をしていた。