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「さて、シャトは寝ちゃってるけど、オーリス達も何か食べる? オーリスは果物で、イミハーテは草とか葉っぱ…ギークは石なら何でもいいのか?」
荷物を探ったシアンは市場で買ったらしい果物を二つ取り出すと、ナイフで簡単に切って皿に盛り、イミハーテを抱えて近くの木々を回る。
「どれなら食べられる?」
「しだぁ。おりりゅ」
「羊歯? いや、下…? 下りる?」
「おりりゅー」
イミハーテはシアンの腕から飛び出してオーリスのそばまで戻ると、その辺りに生えていた草をくわえて引っこ抜き、オーリスに顔を向けて一声鳴くとお皿の上から果物を一切れくわえ、草と並べてオーリスの横に行儀良く座る。
ギークはとゆうと、オーリスを挟んだ反対側で、いつの間にかオーリスの頭の上に乗っていたキーナが出したらしい石を前にこれまた行儀良く座っていた。
「おぉ。なんだ、準備が早いな。私等も出来たら食べるから、待ってないで先に食べていいよ。食べ終わったらゆっくり休みな」
布のばけつ一杯に水を汲んできたカティーナは『ここに置いておきますね』と少し離れたところに静かにそれを下ろし、カティーナとシアンに向かって鳴いて食事を始めた三匹に、その中でもギークに視線を向けながら鍋をかけた火のそばに腰を下ろした。
「不思議ですね、あれだけ硬いものを何の抵抗もないかのようにかみ砕いてしまうのですから…」
「種族が違えばよくあることだけどな」
「他にも何か、珍しい特徴、とゆうのでしょうか、そうゆうものを持った種族をご存知ですか?」
「あ? 珍しいって言われてもな…空跳ぶ大兎だって珍しいだろうし、言葉を話す蝙蝠? 蝙蝠じゃないか? イミハーテだって珍しいだろうよな。キーナなんて身体の中どうなってるか解らないし。あとはなんだろうな、指の先にまた指が生えてて細かい物をいじるのが得意だったり、地下とか完全に明かりのない場所でも見えるとか、全身どこでも味覚を感じられるとか…目が五つあるとか…。味は塩だけでいいか? 鷹の爪でもほうり込む?」
「いえ、塩だけで…。街道を辿って街を回っていてはあまり目にする機会もないでしょうね」
「いや、割といると思うよ? 気づいてないだけでさ。さて、お椀貸して。さっさと食べよう」
もうすぐ食べ終わるだろう三匹の隣で食事を始めた二人は、いつも通りシアンが先に見張りにつこうか、と話していたが、イミハーテがその話を遮るように『みはりー。するー』と声を上げるとオーリスと頭の上のキーナ、そしてギークも並んで一斉に胸を張る。
どうやらシアンが、皆が居るから眠るように、とシャトに言ったことを覚えていたらしい三匹…にキーナを足した四匹は驚いたようなシアンとカティーナを見つめたかと思うと、イミハーテが代表して『ちぎゃう?』というと揃って首を傾げた。
「いや、してくれるならありがたいけど…本気?」
「オーリスさんは昨日も起きてらしたでしょう? 眠った方がいいのではありませんか? 私達なら平気ですから」
「みはりー。するぅ」
シャトの代わりに、とゆうのが大きいのか、イミハーテはやる気に満ちていて、まるで準備体操でもするかのように身体を動かしはじめ、それに合わせるように動くギーク、そしてオーリスとキーナもどこか楽しげに見える。
「わかったわかった。じゃあ、シャトの代わりだから皆1番最後な。食べ終わったら良く寝て、カティーナと交代で見張り。いい?」
「するー」
元気良く返事をしたイミハーテは残りの果物を頬張ると、カティーナが汲んでくれた水に頭を突っ込み、ごくごくと喉を鳴らす。
「ぷぁ。おやしゅー」
ぷるぷるぷると顔を振って水を切ったイミハーテは誰より早く眠るつもりらしく、ギークの上によじ登ると翼で顔を覆うようにして身体を伏せ、ちらっとシアン達を窺うとその大きな瞳をぴたりと閉じる。
「頼もしいこって」
自分のお椀から程よく解れた魚の身を口に運んだシアンは、小さな子供のようなイミハーテに呆れながらも、口元には笑みを浮かべていた。