ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 3

シャト達が向かった森は街からは少し離れていて、所々に明かりは見えるものの夜らしい静けさにつつまれているように見えていた。

しかし南に伸びる街道に近付くにつれ、街の賑わいとはまた別に、森の中からも明るい騒ぎや楽器の音、そしてそれらとはまた違う金属のぶつかり合う音にそれを囃し立てるような大声が響いていることがわかる。

「なんだか騒がしいでようですね」

「えぇ、でも、楽しそうですね…」

声の出所を探るように森の各所に視線を送るカティーナに、いさかいではないようだ、とゆう意味でそう答えたシャトだったが、その声は素っ気なく、表情もどちらかと言えば曇っている。

「少し街から距離が出るかもしれませんが、人の少ない場所を探しましょうか」

ティーナ自身もわざわざその声に寄ろうとは思わないらしく、シャトの表情を意識した訳ではないようだったがそう言って明かりの見えない一角を示すと、『あの辺りはどうでしょう…』とシャトを見下ろした。

「とりあえず行ってみましょう、だめならまたその時に…」

ギークの背中で早くもうとうととし始めたイミハーテが一際大きく響いた金属音に身を震わせると、それをなだめるようにシャトは翼の付け根をぽんぽんと軽く叩き、その身体をそっと胸に抱く。

「昼間も眠らないでしまったでしょう、眠っていいのよ? 大丈夫、皆居るもの」

「しゃとー。かてーな。おーりすぅ。ぎーくぅ。おやしゅみなぁい」

ぱちぱちと瞬きを繰り返したイミハーテはその場に居る全員の名前を呼ぶと、シャトの胸に顔を埋めるように身体を預け、すぐに寝息を立てはじめる。

安心しきったようなその姿と微かに聞こえてくる息遣いに、シャトは表情を緩め、ギークはそんなシャトに読みにくい表情の中にも滲んで見える信頼をどう伝えようか、と考えながらぴったりとそばに寄り、イミハーテとシャトを見上げて低く低く鳴く。

気のせいかもしれないが、その声は地面から力が沸き上がってくるような、身体の疲れが薄れるような、なんとも心地の良い響きで、二人は揃って一度目を閉じ深呼吸をすると顔を見合わせてふっと微笑み、『行きましょうか』と足を進める。

 

賑わいからはずいぶん離れた森の中、夜行性の鳥の声の他にかさこそと周囲の下草が擦れる僅かな音までが耳に届くが、時折、周囲の空気が震わせるように響く金属音だけは弱くなったとはいえ消えてはいない。

あまり人の踏み入らない場所なのか、地面は草に覆われていて、シャトもカティーナも火を起こすことはせず、野営に必要な幕や結界など最低限の用意を済ませると絞った明かりのそばに座り鳥の声とイミハーテの寝息に耳を傾けていた。

そうして夕食の事も忘れて長い間ぼんやりとしていた二人だったが、二人の間に身を伏せていたオーリスが顔をあげた事で我に返る。

「オーリス、お願いね」

それからすぐにシャトはそういってオーリスを送り出し、『シアンさんが戻られたみたいです』とカティーナに話すと立ち上がりギークとイミハーテの様子を見るために自分の背後の、幕の裏を覗き込んだ。