ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 4

ギークは背中にの上で眠るイミハーテを起こさないよう身体を動かさず顔だけでシャトを見上げる。

「疲れない? 何か敷いて下ろすか、幕の中に寝かせるかする?」

小さな声で応えたギークはどうやらそれを断ったらしく、そのまま再び顔を伏せ、目を閉じた。

「おやすみなさい」

その姿はシャトを包み込むようにして眠るオーリスと重なるものがあったが、シャト自身はそれに気付いていないのか、それとも始めから知らないのか、ただギークを労るように軽く頭に触れ微笑んだだけで元の場所に戻る。

ギークさんもおやすみになられたのですか?」

「はい。それほど疲れている訳ではないみたいですけれど、イミハーテのそばに居る方が落ち着けるそうなので」

「…お二人で居るのが当たり前になっているのですね」

「えぇ」

会話が途切れると、シャトはリュックの中から少し大きめの袋を取りだしその口を留めていた紐を解いていく。

袋の表は布ではないようで、分厚くしっかりとしているが、使い込まれているのか紐でくくられた部分や縁の辺りは軟らかく、紐が解かれるのに合わせてシャトの膝の上でゆっくりと形を変えた。

「なんだか食事とゆう感じではなくなってしまいましたが、もしよければ召し上がりませんか? 山羊の乳から作った保存食です、慣れないと少し癖が強いと感じるかもしれませんけれど…」

シャトが袋から取り出したのは薄黄色の棒状のイアティーイと呼ばれる食べ物、言うなれば乾燥させたチーズのようなものだが、カティーナは差し出されたそれを受けとると匂いを嗅ぎ、薄明かりの中で目を凝らす。

「…いただきます」

歯を立てるとかなり固く、噛んだ場所とは違うところで割れたそれをカティーナは顔を上向けるようにして口の中に運んだ。

塩気のあとで広がる酸味と鼻に抜ける匂いに、一瞬顔をしかめかけたカティーナだったが、じんわりと伝わる旨味と甘味に気がつくと口の中でゆっくりと転がし、水気を含んで来たところでぐっと噛み締める。

顔をしかめかけはしたが、匂いを嗅いだあとでためらいなく口にしてもいて、もともとそう苦手な匂いとゆう訳でもなかったらしい。

しばらくして微笑んだカティーナは『おいしいです』と手の中の残りを再び口に運ぶ。

「良かったです。まだありますから、遠慮なく」

ティーナに続いてシャトが口を動かしはじめたところで強く風が吹き、木々の間を縫うようにオーリスが姿を見せた。

しかしその背にも背後にもシアンの姿はなく、口をもごもごとさせたシャトは口の中のものを飲み込み、

「シアンさん、向こうの、騒がしかった辺りの様子を見てからくるそうです」

と背中側から肩に顔を載せて鼻をひくつかせるオーリスを撫でる。

「すぐに戻られるのでしょうか…?」

二本目のイアティーイに手を伸ばしたカティーナはそこからでは明かりもほとんど見えはしないが、シャトの言う"騒がしかった辺り"へと顔を向け、『何か気になることでもあったのでしょうか』と独り言のように口にする。

そのあとでオーリスが自分を見ていることに気がついたカティーナは、そちらに向き直り"お疲れ様でした"とゆうようにオーリスに向かって軽く頭を下げると手の中のイアティーイの端をくわえるようにして再び元の方へと視線を投げた。