ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 5

イアティーイのはいった袋をしまい、代わりに砂糖と香辛料を合わせて付け込んだ果実の入った瓶を取り出したシャトは、きゅぽん、と小気味いい音を立てて木で出来た栓を抜く。

口を濯いだカティーナは、一度鼻のしたをこするように手を添えて、すん、と小さな音を立てると、周囲に漂う香辛料と果物の混じり合った、柔らかな香りに心地良さそうに目を細めた。

イアティーイの味は気に入ったようだったが、香りに関していえばこちらの方が好みらしい。

「みつを割って飲んでもいいですし、漬けた果物も食べられます。温かくすると香りが立つので好きなのですが、火は焚かずに飲む分だけ温めましょうか…」

「シャトさんの鞄はキーナさんだけではなくて、それ自体が何処かと…たとえばシャトさんのご自宅のキッチンと、繋がっているかのようですね」

袋も瓶もキーナのいる大きなポケットからではなく、その下の小さなポケットから取り出したのを見ていたカティーナは楽しげに微笑むと、口をつけずに残っていた最後の水筒の栓を抜き、自分の荷物の中から発熱の魔石を取り出した。

ティーナがそんなことを言うとは思わなかったのか、シャトははじめぽかんとしていたが、リュックのポケットから繋がったキッチンを覗き込む様子を想像してふふっと笑みをもらす。

「私、また変なことを言いましたか?」

「いいえ、素敵だと思います。繋がっていたら、面白いです」

そう言ったシャトはカップを取り出し、カティーナは魔石を覗き込む。

透かすように覗いた魔石の中には小さな小さな光が淡く灯っていて、『二人分くらいなら足りるでしょうか』と鍋の裏側の窪みに嵌め込むようにしてそれを固定したカティーナは、水筒の中身をとぽとぽと鍋に注ぐ。

風呂を沸かすとゆうならば直接水に魔石を放り込むところだが、飲み物を、となると洗うことも出来ないこのような場所ではそうするわけにもいかず、カティーナが手にしているのは始めからそれ用に形を合わせて作られた鍋と魔石らしかった。

掛け声をかけると魔石の光が強くなり、すぐに鍋の底から小さな泡が出はじめ、それが少しずつ大きな泡になり、こぽっ、とゆう音が一、二度鳴った沸く寸前、とゆうところまでいったかと思うと水面の動きが弱まりふわっと湯気を立てる。

「あ、切れましたね…」

「ちょうどいいんじゃないでしょうか、これ、お願いします。七分目辺りまで」

シャトはみつを注いだカップを載せたお盆がわりの板を草の上に下ろすと、お湯が注がれるのをじっと見つめ、その湯気にのって立ち上る香りにほぅとため息をついた。

「「どうぞ」」

「「いただきます」」

続けて重なった二人の声にいつの間にか外に出ていたキーナを相手に遊んでいたオーリスがキーナ共々やってきて、からかうようにシャトを鼻先でつついたあとでカティーナの膝の上に顎を乗せ、少しだけ不機嫌そうに上目遣いでその顔を見上げる。

「すみません」

ティーナはそんなオーリスの表情が読めたのか笑って謝り、湯気の立つカップを鼻先に運ぶ。

「いい香りですね…」

二人が揃ってカップに口をつけると、何処からか『シャトー。カティーナー』とシアンがシャト達を探す声が聞こえてきた。

 

シャトが返事をするとその場の明かりに気がついたのか、がさがさと下草を分けて近付いてくる音が聞こえ、木の陰からひょこっとシアンが顔を出した。

「お待たせー。何かすごいいい匂いなんだけど」

「お帰りなさい。シアンさんも召し上がりますか? お湯は沸かさないとないのですが」

シャトの手にした瓶を見て、何を飲んでいるのかが分かったらしいシアンはこくこく頷いて『お湯は自分でやるからそれだけくれる?』と荷物から汁ものを飲むときに使う器を取り出しシャトに渡す。

そして『向こうの方賑やかでさぁ…』とあぐらをかくように草の上に腰を下ろすと、シャトから受けとったカップに魔力を込めながら見てきたものの話を始めた。