ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 6

シアンの話によると騒いでいたのは街道沿いに旅をし、エマナクに立ち寄った者達、その中でもシャト達と同じように宿を取らず、野営をするために森に幕を張っているいくつかの組で、混じり合う中で酒を飲み歌い踊る者達が居れば、力や技を競う者、その勝敗で賭けに興じる者など様々らしいが、理由は様々あれどそこに居る大半は一所に落ち着くことの出来ない者だった。

 

そうゆう者達が動くことで物が、情報が、金が回るとゆう部分もあるし、中には明確な目的を持って一つ一つの歩みを積み重ねる堅実な者、ただただ旅をしていることが好きとゆうだけで騒ぎを好まない柔和な者もいて一概には言えないが、細かいことは気にせず豪快で誰に対しても壁を作らない半面、粗野、更には粗暴、とゆう表現が当てはまる者も多くいて、特に静かな街では嫌厭される事が多いのも事実だ。

 

そんな者達の酒宴を、"騒がしい"と表現したカティーナとシャトに対して"賑やかだ"と表現したシアンの性質の違いを取り上げるのは今更とゆうところだろうが、シャトとカティーナはシアンが楽しげに話したあとでも特別興味を持つこともなく、静かにカップに口をつけていた。

「…それで、街の方はどうでしたか? 何かいいものはありましたか?」

「いや、だめだった。長く受け手を探しているものはどうしたって時間とか報酬が噛み合わないものが多くなるし、うまい仕事はあったとしてもすぐにはけるからな。水鏡も酒場も回ったけどこれってのはなかった。ただ、明日の朝はまた別の仕事が出てるかも知れないからここ離れる前にもう一回回ってみるつもりではいるけど」

温めた果実と香辛料のみつに水ではなく、小さなガラス瓶に入ったお酒らしい液体を注いだシアンはちびちびとそれをなめ、"私だけなら別なんだけどなぁ…"と見て回り聞いて回った依頼の数々を思い返す。

中には数さえ居れば時間も手間もそうかからないだろうものもあったが、野盗の制圧や害獣の駆除などにシャトを連れ出すのは気が引けるし、こうして動いていると一人で他の組に入り込むのにも乗り気はしない。

「とりあえず、水は汲めるだけ汲んできたから」

「ありがとうございます」

「シアンさん、これ、お願いしても? 魔力が切れてしまって…」

「ん、貸して。…明日は朝一で街の方回って来ようと思うけど、二人はどうする?」

温かいカップを片手に魔石に魔力を込め、自分の幕を取り出したシアンは答えを促すようにカティーナとシャトの顔を交互に見る。

「私は時間があるようならオーリス達と少し出てきたいのですが、シアンさんの方はどれくらいかかりますか?」

「仕事が見つかるかどうかだからなぁ…。二、三日ここにいても構わないってゆうならそのつもりで動くんだけど、どう?」

「…はい、私は構いません。ただ、長く居るなら水場に近い方が嬉しいのですが、この辺りでそうゆう場所はないでしょうか?」

「南に川はあるけど、水使うこと考えたら井戸か涌き水の方がいいよな…。…人通りが多少多くても構わないなら街の北側から西に向かう街道の一つ目の水場はそう離れてもいないかな…歩くとけっこうかかるんだけど」

「そうですか…じゃあ夜はここの方がいいですね…。必要なときにそちらへ行ってきます。…あ、あと、私はもうしばらくイミハーテとギークと一緒に動くつもりなのでお手伝いは出来ませんが、もし荷運びや何か、そうゆう仕事があるようならオーリスはお手伝いしたいと言っているので、遠慮なく声をかけてください」

「え、いいの?」

「はい、荷車さえ借りられるなら。オーリス用の紐もありますから大丈夫です」

「じゃあもしそうゆうの見つけた時はよろしく、オーリス」

ティーナの隣で頷くように頭を動かしたオーリスは、眠るつもりになったのか、胸を張って見せることもカティーナやシアンに擦り寄る事もなくシャトの背後に回って丸まるように身を伏せた。

いつもより静かなオーリスの動きを追ったあとで、『先ほどおっしゃっていましたが…』とカティーナがシアンに向かって口を開く。

「適性を調べる魔石とゆうのは…?」

「前に話した…よ、な…?」

シアンは"あれ…?"と話をしたかどうかを考えるように幕を広げはじめた手を止める。

「はい、話はお聞きしました。そうではなくて、誰でも触れる事ができるのですか?」

「ここのは誰でも使えるよ」

ティーナの言葉に頷いて立ち上がり、幕を吊しはじめたシアンは『明日ついでに見に行くか?』と振り返りもせずに投げかけ、話は最終的にシャト達は朝のうちはここで待ち、二人は仕事があってもなくても一旦ここに戻ってくるとゆう事に決まって三人はそれぞれに夜の用意に動き出す。

「見張りはいつも通りでいいか?」

「シアンさん、お酒を召し上がっていた様ですが、大丈夫なのですか?」

酔ったら眠るだろう、とシャトの家等での様子からカティーナは尋ねたが、シアンは

「強くはないけどあれくらいなら大して酔いもしないよ。まだあるけど、カティーナものむか?」

とポケットから出したガラスの小瓶を正確にカティーナの胸元へと投げて寄越した。