ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 7

街道沿いの野営組の騒ぎはそう遅く成らずに収まったが、街の賑わいは夜半過ぎまで続いた。

星の光る夜明け前の晴れた空、辺りは静まり返っている。

南から翼を広げた大きな影が森を横切ったその時だけ、波が伝わるように鳥や動物達がざわめいたが、各組の見張りは空を見上げただけで立ち上がる者も居ない。

「綺麗…」

薄暗い結界の中、キーナとオーリスと一緒に様々な草の中から食草に薬草、木の実、そして一般的には毒としてしられているキノコなどを集めていたシャトは、他の見張りと同じように空を見上げ、遥か高い空を飛ぶ竜の姿にそう呟いた。

目的の物以外にも気に入った石や木の葉等を身体の中に納めていくキーナと、匂いを頼りに下草を掻き分けてキノコや薬草を掘り出していたオーリス、二人もシャトに続いて空を見上げると何を伝えているのか、交互にシャトに擦り寄る。

「そうだね。せっかくだもんね、会いに行こう、皆に」

自分に言い聞かせるようにそう答えたシャトは、膝の上のキノコを手にとるとぼんやりとした顔で口に運び、ゆっくりと咀嚼していく。

「…大丈夫そう…」

しっかりと噛み砕いたキノコを長く口の中に置いたあとで飲み込んだシャトは、水筒に口をつけ、誰に言うでもなくそう口にした。

それからしばらくオーリスとキーナの毛を櫛で梳いていたシャトは、空がしらみ周囲が明るくなると改めて、採った物から食べられない物をより分ける。

『朝ご飯の用意しようか』と立ち上がったシャト、その手に抱えられている籠の中身は食べられない物の様だったが、その中にはシャトが口にしていたキノコも混じっていた。

 

「買い物大丈夫なのな。じゃあ、またあとで」

「行ってきます」

「いってらっゃい」

朝食を終えて街へと向かう二人を見送ると、シャトは籠に分けておいたキノコや毒草、そして薬草や木の実を、物によっては薄く削ぎ、粗く織られた布に丁寧に並べていく。

もちろん食事の材料としては使われなかった種類の物だが、どうやら乾かして取っておくつもりらしかった。

「いいお天気。シアンさん達、お仕事見つかるといいけど…。もし、長くここに居るときには水浴び行こうね」

シャトの隣に居るのはギークとイミハーテで、籠に並べられた物をじっと見て、視線を外すことなく頷くようにする。

「必要だけど、今すぐ覚えなくても大丈夫だから。判らなければその度に聞けばいいの。だんだん覚えられるからね」

「しゃと、からだ、だいじょうぶ…?」

「私は平気。でもイミハーテは食べちゃだめ」

「わかったー。きょうは、いいてんき。しあん、と、かてぃな、はおでかけ」

「そうね」

「いみはーて、なにする?」

「待ってる間? 何してようね、木の実でも集めようか?」

「するー」

また一段と言葉がしっかりしたイミハーテは籠の中の木の実と周囲の木を見比べ『あれ、たべられる?』と聞くと、その木に向かって羽ばたき、枝の上にちょこんと座って小さな赤い実を掴んで引っ張る。

「食べられるけど、気をつけ…」

シャトが言い終わる前にぷちん、と枝から離れた実と一緒に転げ落ちたイミハーテは大きな瞳をぱちくりとさせたかと思うと『きはー』と笑い声をあげ、一部始終を見ていたギークに、今起きたことをもう一度動きもつけて始めから伝えようと、ギークの上と木の枝の上をせわしなく行き来していた。