ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 8

「とりあえず水鏡回るけど、一緒にくるか? 魔石見に行くならあのでかい塔めざせばいいから一人で行っても迷わないだろうし、行けば分かると思うけど」

「実際に使っているところを見てみたいのでシアンさんにお願いしようかと思っていたのですが」

「…。まぁいいや、じゃあとりあえず仕事探しな」

街の外れとはいえ日が高くなると所々にある商店が開き、それに合わせて人通りは増える。

そんな中をシアンと話しながら歩いていたカティーナは不意にローブを引かれて振り返ったが、シアンはそれに気付かず先に行く。

振り返った先には濃いオレンジ色の髪に青い目をした小さな子供が居て、カティーナは身を屈める様にしてその子供に『何かご用ですか?』と声をかけた。

子供の口がぱくぱくと動いたが、かすれた声を聞き取ることが出来なかったカティーナは、よりいっそう身を屈めようとして後ろから勢いよく突き飛ばされた。

目の前の子供にかぶさるのを避けようと身体を捻ったその瞬間、手に提げていた荷物の紐が勢いよく引かれるのを感じたが、掴み直そうとした直後に紐は手をすり抜け、指の端に小さな擦過傷を残しただけで手の中には何も残らなかった。

「待…!!」

受け身をとるようにしてすぐに起き上がったカティーナだったが、人垣を縫うように三つの影がそれぞれ別の方向に走っていくのを見て、どれを追うべきか、と一瞬考えたのが災いし足を踏みだして間もなくすべてを見失った。

ほどなく立ち止まり、人込みの奥へと視線を投げながら深く息を吐いて手や肩に付いた砂を払うと、そばにいた子供は大丈夫だったろうか、と元の場所に向かうが、そこに子供の姿はすでにない。

きょろきょろと辺りを見回したカティーナは、眉を寄せて近付いてくるシアンの姿を見て『すみません』と口にした。

 

「ぐるだよぐる、子供も何もぜーんぶぐる。あ”ぁっくそ! …オレンジの髪に青い目ってのは確かなんだな?」

「えっ、はい。近付いたのでそれは間違いありません」

「手分けして聞いて回るぞ! 初めてにしちゃ手慣れてる、しょっちゅうやってるならどっかに知ってる奴ぐらい居るだろ!」

ティーナから起きたことのあらましを聞いたシアンは当の本人より腹を立てているようで、いつもにまして口調が荒っぽい。

「あの子を探すんですか?」

「いや、探すのは荷物だ、荷物! 買って済ませられる物だけなら無理して探す必要もないけどそうもいかないだろ? 盗んだ奴ら探してもたぶん見つかる頃には売っぱらったあとだろうからな、そうゆう奴らが盗品を売る店を探す。って言ってもこの街の北側一帯は割とそうゆう店が多いんだ、一人でも二人でも見た目が分かってた方が特定しやすい。見つけても買い戻せるかどうかは別だけどな! …あと、この街には盗人捕まえるような組織はないし、捕まえてぼっこぼこにしてやる、ってゆうんじゃなければやった奴らはほっとけ。見つかっても見つからなくても日が真南に来る頃一回ここに集合。以上」

「…はい」

自分の荷物が盗まれたにもかかわらず盗んだ相手に苛立つでもなく、ただ荷物が手元から消えた事に少しだけ困った様な顔をしながらも落ち着いていたカティーナだったが、シアンの勢いに圧されたのか、普段より少しだけ気を張った顔になり、『…じゃ、いくぞ』とシアンが歩き出したのに合わせて一番近い店に向かって足を踏みだした。