ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 15

テーブルの上に転がった三つの塊、指の先についていた筈のそれは、滑らかな爪から薄い桃色が透けて見えているのにもかかわらず一切血に染まることなく、精巧に作られた模型でもあるかのようにただそこにあった。

 

目の前で誰かが自分の指を切り落とす等とゆう状況には生きている中でなかなか出会う機会もないだろうが、それを前にした二人に慌てた様子はなく、かといって目の前の状況に気圧されて思考が停止しているとゆう訳でもなく、転がった指の先とそれが付いていたアロースの手を見つめ、何故そうなっているのか、とゆう事を考えているらしかった。

"そうなっている"とゆうのはアロースが指を切り落とした事自体ではなく、それにともなって周囲に血の飛沫が飛び、溢れた血が辺りを赤く染める…普通なら起きるだろうそれらの事が起きず、アロース自身もナイフを片手に平然としている事。

みずみずしい赤色の切断面からは"肉"、もっと言うなれば"血"が連想されるにもかかわらず血は一滴も零れ落ちてはいない。

「ワタシ、人形みたいな物なの。味と痛み以外の感覚はあるけれど、食事はいらないし、ご覧の通り身体は生き物を模しただけで本物じゃないのよ」

ナイフを置いたアロースは転がった指の先の一つを拾うと元あった場所にあてがいそのまましばらくじっと待ったかと思うと、まだ二本の指が足りない手の先を二人の前に差し出し、開いたり閉じたりを繰り返して見せる。

「髪、早く整えてしまった方がいいわね」

残りの二本も元通りにしたアロースは黙ったままの二人にそれ以上何かを言うこともなく、器用にカティーナの髪を揃え、元々下りていた前髪の一部をかきあげるようにして何処からともなく取り出したピンで留めると『これはお詫び』と言って目を細める。

「周囲の魔力を寄せる効果があるわ。外から来た貴方にどれだけ効くかわからないけれど」

そう言ってカティーナの首筋を柔らかな布で掃うと服を覆っていた布を取り去り、アロースは二人を店の外へと促す。

「まだ話したいけれど、シアンと同じでカティーナは長くいるのはつらいでしょう…? 荷物もかえしてあげたいところだけれど、それでは詰まらないの。その代わり、どれだけ時間が経とうと他の誰にも売らない事を約束します。シアンには内緒にしてね、詰まらないから。荷物のこと以外でも何かあったら遠慮なくいらして」

アロースが開けた扉の外にはシアンの姿はなかったが、シャトとカティーナはお辞儀をすると店の外に出る。

とても長い間、その店の中にいたような気がしたが日はまだまだ高く、賑やかな声の中には子供の物も混じっている。

「シアンによろしくね」

閉ざされた扉の前でしばらく動かずに居た二人だったが、何処からか聞こえた花火のような大きな破裂音に顔をあげ、それから間もなく、シアンを探すためにその場を後にした。