ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 16

「アロースさんは…何、者、なのでしょうか…」

「…私にも判りません。でも…悪い方、では、なさそうでしたね…」

路地にさしかかる毎にシアンの姿を探し、辺りを見回しながら、言葉を選ぶようにぼそっと口にしたカティーナは、シャトの答えを聞いて何故か安心したような表情を見せる。

不快感から解放され、身体の調子も戻ってはいるが、理解の及ばない出来事に引っ張られる思考がアロースとゆう"個"への感想へと移ったことで初めて一連の出来事が過去形になったらしかった。

「シアンさんのことをずいぶんと"気に入って"らしたようですが、シアンさんとはどうゆう関係なのでしょうね」

「私が何だって?」

アロースの店からはやや離れた貧民街の一角、何故か数人の子供達に混じって独楽のような物を握り締めていたシアンは聞き慣れた声で呼ばれた自分の名前に路地からひょっこり顔を出し、そう言うとシャトと並んだカティーナを見上げて目をぱちくりさせた。

「雰囲気変わったなぁ」

「そうですか?」

ティーナは自分の髪にこだわりをもってはいないようだったが、それにしてもアロースに任せたきり鏡も見てはいないし、隣にいるシャトはシャトでそれに触れることもない。

が、ただ長い髪をナイフで切り落としただけ、とゆうのとは違いさっぱりと整えられた髪は、中性的で優しいカティーナの顔立ちと良く馴染み、あらわになった首筋は人の目を引く。

「そうなるとローブが重いな」

「そうですか」

ティーナがローブを引っ張るようにして見下ろしているうちにシアンは子供達に独楽を返し、『食べるか?』とポケットの中から取り出した包みを開く。

中に入っていたのは小さな飴玉で、半透明のそれをはにかむようにして一つずつ手に取った子供達は、シャトとカティーナをちらっと見た後で『ありがとう』『またね』と路地の奥に向かって駆けていった。

「何をしていたんですか?」

「遊んでた。ついでに情報収集」

「何か面白いことでも?」

「割のいい仕事はすぐにはけるとさ。街の中の仕事は酒場でも出てくるけどそれよりは他の街とか、外の仕事を扱う水鏡で見つける方がいいだろうって」

「そんなことを話ながら遊んでいたんですか?」

「偶然遊んでる時間に当たったけど、あの子達もそうして働いてるからな。その辺で聞くより断然詳しいよ」

シアンは二人を促し、何処かを目指しているのか入り組んだ路地を抜けて街の西側へと向かっていく。

その途中、水の入った桶を提げた子供が一人前を横切り、その髪を見たシアンが『オレンジ』と呟くと、それに反応したのかその子供が振り向いた。

「青い目」

子供の視線は続けて口にしたシアンと、シャト、そしてカティーナへと順に動いたが、カティーナの顔で長く留まり、三人が道なりに数歩進むと何かに気づいたのか、ぴくん、と身体を震わせ、見る間にその顔から血の気が引いていく。

「…あぁ、朝の…」

ティーナは"大丈夫でしたか?"と尋ねるつもりだったようだが、それを口にする前に子供は桶を投げ出し走り出す。

「あ、まてこらっ!」

反射的に動いたのはシアンで、二人を残し子供を追って細い路地へ飛び込んで行った。