ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 45

「その魔術師は子供のころから無気力とゆうのかしらねぇ、他人はおろか自分の身の周りのことにも興味を持たずに、いつも何かを考えているのかただぼんやりしているのか解らないような顔で部屋の隅に座っている、そんな子だったそうよ。エテバスとして生まれて、周囲はその成長に期待をかけていたようだけれど、他の子供と一緒に街の魔術師から基礎的な事を学ぶようになってもそれは変わらず、あさっての方を向いてぼんやりしていたり、一人だけどこかに行ってしまったり、そんなことがしょっちゅうだったみたい。そのうちにそうゆう過ごし方が合う子なのだろうって、周りは構うことをやめて好きにさせていたようだけれど、唯一基礎を教えていた魔術師だけは、ぼんやりしているように見えてきっと何かを考え続けているのだと、他の子供達にはさせないような事も何事も経験だと言ってやらせていたみたいでね、ある時"魔動人形"を得意としていた知り合いの工房へ連れていったらしいの…。…魔動人形って解るかしら?」

明らかに自分に向けられた問い掛けにカティーナは首を横に振り、それを見たアロースは指先で自分の顎に触れるようにしながら首を傾け、『なんと言ったらいいのかしらねぇ…』と視線を宙に投げる。

長いまつげを揺らす瞬きや、視線の動き、唇や指先に現れる無意識の動きは自然で、"人形のような物"と自身で表現するアロースの身体が生き物のそれとは違うとゆうことを目にした後であっても違和感を覚えるようなことはない。

ティーナはシャトとアロースを見比べ、そしてアロースと並んで椅子に身体を預けている四つの姿に改めて目を向けた。

「あくまで人形…なのだけれど、いくつかの魔術式を組み合わせたような魔石を予め組み込んでおくことで術者が直接操らなくても動くの。魔道具の一種だとゆう者も居るのでしょうけど、その辺で見かける魔道具とは比べものにならないくらい複雑な魔術式が必要になるみたいなのよねぇ…」

これで伝わったかしら、とカティーナの顔を窺ったアロースは、先を続けてもいいと判断したらしく、自分の膝の上に流した髪に視線を落とし、一呼吸おいて再び口を開く。

「それで、11か12か、そのくらいの歳だったのでしょうけれど、初めて人の形を模した魔動人形を見た魔術師は珍しく興味を持ってその人形の動きをじっと見ていたらしいの。でもねぇ、しばらくして何を思ったか"これじゃただの人形だ"って。でもね、それからしばらくして、いろいろあったみたいだけれど、魔術師はそれまでのぼんやりが嘘だったみたいに本を読みあさって…どうあっても自分なりの魔動人形を作ると、そのことに固執して…」

自分に向くカティーナとシャトの目をじっと見かえしたアロースはその流れで横に並んだ姿を示すように視線を動かし、『私も兄も姉も、そうして作られたの』とどこか寂しげに微笑んだ。