ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 10

「カティーナは?」

ガーダから少し遅れてシャト達の元に戻ったシアンはそう聞きながら、離れた浜に見える舟を眺め、辺りにカティーナの姿を探した。

「向こうに着いたときに手を振っていました。それからは姿が見えませんが、騒ぎが起きたりはしていません」

シアンは様子を見るだけにしては時間がかかってる事が少し気になっているらしかったが、それを口に出すことは無く、手に持った巻紙で自分の肩をぽんぽんと叩いている。

「シアンさん、それは?」

「ああ、これスティオンがくれたんだ。北の魔術師から聞いたことが書いてあるって。ざっと読んだだけだけど、カティーナが正解。魔術師が壁を壊そうとしてたのは間違いないっぽい」

「どうしてそんなことを…?」

「さぁ? 壁を壊す事で何かしたかったみたいだけど、そこまでは話さなかったらしいな。これを読む限りスティオンもあんまり仲が良いって訳じゃなさそうだし、街の皆を遠ざけてたのも間違いない、自分達だけで何をするつもりだったんだか」

シアンはそこまで言って『読む?』と巻紙をシャトに差し出し、自分は近くの岩に腰を下ろすと読んだ内容を噛み砕いて反芻する。

 

魔術師達は住み着いた当初からイマクーティを避け、時々スティオンを通して生活に必要な物を手に入れていた。

罠で街の者達が怪我をした後でもその事を気にする素振りは無く、ただそれまで以上にイマクーティを避け、街にやってくる回数は減っていった。

魔術師達はスティオンとの交流も必要だからしているとゆうだけで、好意的な感じはなく会話も最低限の事だけ。

それでも時に言葉の端に日々の出来事が現れるこもあり、スティオンはその内容を気にしていた。

自分達のやることに口を出すような人間が居ない場所が必要でこの土地へ来た。

女の一人を中心に、求める物のために魔術師として持てるものを総て注ぎ、あと少しでそれが形になる。

断片的に結界や魔力の海、世界を隔てる壁、そして世界の狂気について話していたが、それが世界の為になると言っていた。

擬似的な嵐、安全に傷を付けること、結界を使って周囲の安定を図ること、何処までが本気か判らないが、本人達は真面目にそうゆう事を考え続けていたらしい。

 

スティオンにとっては待望の"普通の人間"だった筈だが、書かれている文章からはそうゆう感情は見えてこない。

むしろ、どこか危険視しているような、あまり関わり合いたくはないと思っていたようにすら感じられる。

シアンは壁の傷と結界がどう繋がるのかも魔術師が何を考えていたのかも全く解らずに首をひねり、スティオンともう一度話す事は出来ないだろうかと考えたが、それは無理か、とさっきのスティオンの様子を思い返していた。

「スティオンさん、長い間魔術師さん方の事を気にしてらしたんですね…ずいぶん細かいことまで書いてある…。世界のために嵐がある…とゆう風に読めますが…どうゆう事でしょうか?」

「さぁ? でも、嵐が起きるとしばらく辺りには近付けないけど、落ち着くとその辺りに精霊が増えるなんて事も無くはない。それ以上は分からないし、それ読んだだけでは私に出来ることなさそうなんだよな…とにかくカティーナが戻るの待とう」

「カティーナならさっきからあそこに居るぞ?」

ガーダの声に二人は舟の方へと視線を向けたが、そこにカティーナの姿は無い。

「違う、森の方だ」

二人がガーダの示す先へと視線を向けると、川の向こうに立っていたカティーナは軽く頭を下げたが、近付いてくる事はなく、そのまま何故かその場に立ち続けている。

シアンが立ち上がってそちらに向かおうとすると、カティーナは仕種でそれを止め、髪を振り、身体を手で払う様にはたき、顔を覆っていた布を外す。

何をしているのだろう、とシアンもシャトもその場にいたイマクーティ達も不思議そうな顔をしていたが、当のカティーナは自分の周囲を見回し納得したように頷くと、何もなかったかのようにこちらに向かって歩きはじめた。