ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔術師達の家へ 6

「カティーナ殿は本当に嵐の中でも平静を保っておられるようだ…」

マルートは呟き、胸に手を当て祈るように目を閉じた。

しばらくそのまま動かずにいたが、自身を奮い立たせる様に拳を強く握ると振り返り、

「皆、客人に頼ってばかりは居られない。今一度精霊の元へと向かおう、そして何か一つでも出来ることを探すのだ」

と静かに言った。

マルートの声にイマクーティ達は頷き、揃ってシャトとシアンに向き直る。

「シャトは残らねばならないだろうが、シアンはどうする?」

「…スティオンのとこ行ってみたいんだけど、誰か案内してくれる?」

ガーダの問い掛けに質問を返し、シアンはイマクーティ達の顔を順に見たが、応えたのはガーダだった。

マルートと供をしていた二人、精霊と話せるとゆうタドリ達の六人は森の奥の精霊の元へ、シアンとガーダともう一人はスティオンの元へ、シャトと残りの二人はこのままカティーナを待つことに決まり、それぞれが動き出す。

マルート達の姿はすでに森の奥に消え、シアンはガーダを待っているが、ガーダはシャトに歩み寄る。

「シャト、何かがあったらすぐに呼べ」

そう言って手を差し出したガーダをシャトは怪訝そうな顔で見返し、その隣ではカティーナの舟から目を離さないままオーリスが不機嫌そうに唸り、ガーダを非難しているらしかった。

「今だけだ」

ガーダのその言葉にシャトは躊躇いながらも頷き、差し出された手に自分の手を重ねていく。

すると二人の表情がうつろになり、シアンは何が起きたのかと訝しがったが、それはほんの短い間の事で、ガーダはすぐにシアンの方へやって来て森での騒ぎの後と同じように肩に抱えあげた。

「おい! またこれか! これ走ると揺れるんだぞ!!」

「この方が早い」

「私なりに急ぐからっ!」

「疲れないで済むだろう? さぁ、行くぞ」

有無を言わせずもう一人と連れだって走りだしたガーダの肩の上で、シアンは『くそっ』と呟いたが、仕方なくシャトに向かって振るつもりで手を動かす。

シアンからは見えてはいないだろうが、シャトも小さく手を振って見送り、空を見上げる。

一面に雲のたちこめた空からは日が差すこともなく、気温は上がっていない。

シャトはローブの襟を直し、何かを考えているのか空を見上げたまま声を出さずに唇を動かしている。

「シャト、舟が浜に着くぞ」

その場に残ったイマクーティからそう声がかかり、シャトが振り返ると丁度舟が浜に乗り上げたところで、問題は無いとゆうことなのか、カティーナがこちらに向かって大きく手を振っている姿が見えた。

シャトが手を振り返すとカティーナは舟から飛び降り、浜の上を崖に向かって歩いてゆく。

「あれは一体どうゆう者なのだ?」

そう尋ねられたシャトは首を傾げ、すこし考えたが、

「私もよく知らないんです」

と口にする。

「シャトが連れて来たんだろう?」

「なりゆき、とゆうか…。いまさらですけれど、シアンさんもカティーナさんも、なんであんなふうに動いて下さってるんでしょう?」

「…お前はあいかわらずだな」

そう言われてシャトは隣に並んでいるイマクーティを見上げるが、イマクーティは呆れたような顔を見せただけで何も言わず、シャトの頭をその大きな手でがしがしと撫でるだけだった。