魔術師達の家へ 2
街の外れにはすでに数人のイマクーティが集まっていた。
その中には三人の毛色違いのイマクーティの姿もあったが、その内の一人がタドリだとゆうことにシアンは驚き、ガーダに尋ねる。
「タドリも行くのか?」
「自分から行くと言い出した。今日集まった者は皆自分の意思でここにいる」
昨日の話し合いの場にいなかったらしいイマクーティ達にシアンとカティーナを引き合わせると、ガーダは三人から離れ、他のイマクーティと話を始めた。
その時頭上を影が過ぎ、シアンとカティーナは空を見上げる。
視線の先にはオーリスの姿があり、そのまま円を描くように空を駆けたかと思うと地上を巻き込む程の大風を起こし周囲を驚かせた。
そしてシャトのそばにそっと着地すると、ガーダに向かって鼻を鳴らす。
振り向いたガーダの渋い顔に、もう一度鼻を鳴らしたオーリスはまるで見せ付けるようにシャトに擦り寄り、胸を張るようにして隣に並ぶ。
「オーリスどうしたの?」
シャトが尋ねてもオーリスは答えないらしく、ただただじっとガーダに視線を向けていた。
それからすぐに、長老のマルートとその供なのだろう二人のイマクーティが姿を見せた為にそこに集まった全員がそちらを向いたが、オーリスだけはガーダの背に視線を向けたままだった。
マルートはその場にいる全員の顔を順に見てから威厳のある声で言う。
「スティオンの家を訪ねたが、会う事は出来なかった。何も分からぬまま北へ向かうことになる、皆、気を引き締めておくれ。シャト、オーリス、シアン殿、カティーナ殿、この場に来てくれた事、感謝します。どうか、ご自身の安全を第一に」
三人とオーリスが頭を下げることでその言葉に応えると、マルートの先導で一行は北へ向かって歩きはじめた。
マルートの訪問を避ける為に家を離れていたらしいスティオンが、物陰からその一行を見送り、眉間にしわを寄せながら足早に家へと戻って行く姿に、辺りのイマクーティ達の鋭い視線が刺さる。
スティオンは一層足を早め、家に飛び込むと勢いよく閉めた扉に背中をつき、気が付いた時にはその場にしゃがみ込んでいた。
その身体は小刻みに震え、外で見せる居丈高な様子は姿を隠している。
「この街を、離れなくては…」
そう呟いたスティオンは立ち上がろうとするが、震えた身体には力が入らず、そのまま床を這うように家の奥へと向かって行った。
街から魔術師達の家までは海岸沿いを三十分程歩く事になるが、街からすぐの辺りには目に見えるような異変はない。
「あそこに川があるだろう、ここのところあの川の向こうにはひどい腐臭が漂っている。その臭いだけでも鼻の利く我等には辛くてな…罠のような物が有るとすれば、もっと先、魔術師の家からそう離れていない場所だけなのだが、そこまで行くこともままならない…」
ガーダと話していたイマクーティが先を指差し、そう教える。
街と魔術師達の家のなかほどにある川の向こうをよく見ると、その辺りから先の木々は黒ずみ、枯れたようになっているものも有るようだった。
間もなく川を渡るとゆう所へ来て、タドリ達が不安げな表情を見せる。
「先日この先まで様子を見に行った時にはまだ精霊の姿が在ったのですが、今は姿も無ければ声も聞こえない…」
精霊だけでなく、周囲には動物の姿もない。
一行は川を渡り、強くなる腐臭に顔を歪ませながらも辺りを注意深く窺い進むが、その後ろでオーリスは毛を逆立て立ち止まり、カティーナは大声をあげた。
「止まってください! この先に行ってはいけない!!」
視線を一身に受けたカティーナの、
「すぐにここを離れるべきです」
とゆう言葉に、何が起きているのか解らないイマクーティ達は戸惑いを見せたが、マルートはカティーナを信じるべきだろうと皆を促し来た道を引き返す。
「嫌な感じがする…」
シアンもはっきりとはしないが何か良くない雰囲気を感じているらしく、自分の身体を抱えるようにして肩の辺りをさすっていた。