ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 10

シアンがガーダに連れられ長老達やシャトの居る部屋に入ると、一同の中央に立ったローブ姿の男が振り返り、ちらとシアンを見た。

その視線は何処か敵意を含んでいるような冷たいものだったが、薄暗い部屋の中でもあるし一瞬のことでシアンが気付くことはなく、そのままカティーナとシャトの後ろへと歩いていく。

「私には関わりの無いこと。この地を離れれば済むのです、それでいいではありませんか。危険を冒してまで何かをする気はありません。あなた方が動くのは勝手だが、私を巻き込まないでいただきたい!」

正面に向き直った男がそう言い放つと、数人のイマクーティが怒気を孕んだ声とともに立ち上がろうとするが、周囲はこれ以上の衝突は避けるべきだとそれを力で押さえ込み動きを封じる。

しかし、汚らわしいとでも思っているのか、顔を歪めてその様子を見下ろす魔術師に、動きを封じているがわのイマクーティですら低い唸りをあげ、両者の間には今すぐに何かが起きてもおかしくないほど険悪な雰囲気が漂っていた。

シアンは何があったのかと尋ね、カティーナがことのあらましを耳打ちする。

 

魔術師は遣いに従ってここまでは来たが、どうやら自分以外の人間がすでにこの場に居ることが気に食わなかったらしく、長老達の挨拶にも問い掛けにもしばらく答えなかった。

その時点ですでに一部のイマクーティが苛立っている事は分かっていたはずだが、ようやく口を開いたのは『この異変の原因に心当たりはないか』と尋ねられた時で、『原因が私に有ると考えているなら見当違いも甚だしい!』と言って周囲を睨みつけたらしく、イマクーティ達と言い争いになった。

魔術師の口ぶりから何かを知っているだろう事は伝わってくるが、力を貸す気はなく、それについて話す事もない。

徐々に互いの口調は荒いものへと変わっていくが、長老の一喝でイマクーティ達が引き下がり、『この土地を守りこの土地で生きるために力を貸してほしい』と長老達をはじめ、その場のイマクーティ達が揃って頭を下げたことに対する答えがあの発言だった。

 

「本人もここで生活してきたんだろうに…」

シアンがぽろっと口にすると、魔術師のスティオンが振り返り睨みつける。

「何も知らぬよそ者に言われる筋合いはない!!」

首を竦めたシアンをなお睨んでいるスティオンだったが、シャトが立ち上がると視線が動く。

「スティオンさん、力を貸してください。魔術の知識もなく、精霊との会話もままならない私達には貴方だけが頼りです。今の時点で分かっていること、やらなければいけないこと、魔術師としての意見を聞かせて頂きたいのです」

「…魔術師が必要だと言うのならそこの二人に頼めばいいだろう。私は巻き込まれるのはごめんだ」

強硬な姿勢を崩さないスティオンに、長老の一人が立ち上がる。

「分かった。スティオン、互いに冷静になる時間が必要なようだ。今はここまでにしよう…この場に足を運んでくれた事、感謝する」

そう言って深々と頭を下げた長老を見て、スティオンは申し訳程度に頭を下げたが、そのまま何かを言うこともなく部屋をあとにする。

「これからの事、少し我々だけで話したい。シャト達もどこかで少し休んでいておくれ、何かがあれば遣いを出そう」

「分かりました」

シャトが頭を下げると、カティーナも立ち上がりシアンと並んで頭を下げた。

建物の外に出ると、一人のイマクーティが駆け寄ってくる。

「シャト、大丈夫だった? 今魔術師が怖い顔して出て来たけど…」

「ウラルさん…」

「あ、言いたくなければいいのよ。えっと…長老達との話は終わったの?」

シャトがそれまでのことを話すと、ウラルと呼ばれた雌は難しい顔をする。

「きっとしばらくかかるわね…。あの、よければ皆さんでうちにいらっしゃいませんか?」

シャトがウラルはガーダの娘なのだと話すと、シアンもカティーナも改めて挨拶をする。

そしてガーダの家ならば気兼ね無く話ができるだろう、と長老達の話し合いが終わるまでの間待たせてもらうことにした。