ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 15

「どうゆうつもりだ! シャト!! ウラルッ!!!」

「ウラルさんを怒らないで…! 私の為に教えてくれたんです、知らないままで何かがあったら私…ガーダさんわざとでしょう? 私が嫌がるの分かっててナガコさんのこと」

「そうでもしなければスティオンと話すらしないままだったろう! この土地に住んでいる者が力を合わせなくてどうする!? …外の者に荷を負わせて何もしないで眺めていろとゆうのか!?」

「そんなこと言ってません!」

「しかし私が何も言わないままであの場に出たらシャト、お前はまず間違いなくあの蛇神のところへ行ったろう!? そうなればそのことを気に病んでここへは来なくなる、蛇神にも会わなくなる、違うか!」

「父さん!!」

言い過ぎだ、とウラルはガーダとシャトの間に割って入り、はっとしたガーダは自分を落ち着けるように深い呼吸を繰り返す。

「この土地を守る為に出来る事は全てすべきだ。その上で街の者が傷つかなくて済むのならそれに越したことはない。たが、シャト、お前のことも大切なのだ。危険と分かっている場所に連れてはいけないし、情報があればいいのなら必要も無い」

「心配して下さってる事は分かっています。でも、もう子供じゃない…獣遣いとしても、私個人としても、出来る事と出来ない事の判断はつきます。ナガコさんを、もしかしたら他の仲間達にも…頼ることになるなら、自分の目で確かめたいのです」

二人のやり取りにしばらくは気圧されたように黙っていたシアンだったが、話の切れ間におずおずと口を開いた。

「あのさ、私は外の人間だし、出しゃばるなとか言われるかもしれないけど、一緒に行っていい? …だめって言われてもシャトが行くなら勝手についてくけど」

「何のつもりだ?」

「たぶん魔術の使える奴が必要でしょ? 魔術師を名乗れるほどの力は無いけど、それでも、居ないよりましかな…って」

シャトは何かを言おうとするが言葉にならず、シアンの袖を掴み首を横に振る。

「だってシャトだけ行かせて待ってらんないでしょ」

シアンの言葉にカティーナも頷き、ガーダを見あげる。

「シャトさんやガーダさんのように、街への思い入れ、とゆうものが今日一日で出来た訳ではありません。ですが、群れの皆さんは良くしてくださいましたし、シャトさんも、長老様も気にかけて下さっています。何もせずに待つのはシアンさんの性に合わないでしょうし、何かをしに行くのではなく、何をすべきかを確かめに行くのなら、数が多い方がいいのではないでしょうか。お許しさえいただければ私も同行させていただきます」

「シャトが残ればそれで済む。友人を危険な目に遭わせたくはないだろう?」

ガーダはシャトを正面から見据えそう言い、シャトはシアンとカティーナの顔を見た。

「その言い方はずるいだろ!」

「何とでも言え、私だけではなく長老もシャトを連れていきたくはないのだ。どちらにしても許しは出んだろう」

「ガーダさんも北へいらっしゃるのですよね?」

ティーナの問い掛けにガーダはなかなか答えない。

質問の裏に何かがあるのではと怪しみ、カティーナの顔を窺っている。

「私も行く、が、それがどうした」

「シャトさん、シャトさんがどうしても行きたいのならガーダさんはここには残らないのです、勝手に一人で行くとゆう手もありますよ?」

ガーダは言葉を失い、毛をざわつかせカティーナを睨むが、カティーナはその視線に動じない。

シャトが危険な目に遭うことはカティーナも望んでいないはずだが、なおも言葉を続ける。

「魔術について知識が足りないとご自身で思うのなら、シアンさんと一緒にいけばいい」

「おい、カティーナ…?」

「出来る事は全てすべきだと言いながら、お二人とも冷静さを欠いてらっしゃるように感じます。シャトさんは自分の目で確かめることが必要だと言い、ガーダさんは自分達だけではどうにもならない事を知ってらっしゃる。どちらにしても魔術を使える方の協力があった方が確実なのでしょう? なら、ガーダさんはシャトさんが、シャトさんはシアンさんが同行するのを受け入れるべきです。そうなれば私は役には立たないかもしれませんが勝手に付いていきます」

ガーダは黙り込み、シャトはカティーナを迷いの滲む目で見つめ、一度顔を伏せた。

シアンは思いもよらない事態にカティーナを見あげ、眉を寄せている。

しばらく沈黙が続き、どう転ぶかとシアンが思いはじめた頃、シャトが口を開いた。

「シアンさん、一緒に行っていただけますか?」

「あ、ぁあ。それは構わないけど…」

シアンは答え、黙ったまま一点を見つめ怖い顔をしているガーダを窺う。

「危険を感じたら無理をせず他の者を残してでも街に戻れ。何かに気付いたらすぐに知らせろ。…あとは勝手にすればいい。今日はもう休め」

ガーダはそれだけ言うと一人で家の奥へと向かっていく。

ティーナはその背中に向かって深々と頭を下げた。