獣人の街 13
「あとでガーダに聞こうかと思ってたんだけどさ、街の魔術師と折り合い悪くて話をしなかったにしても、何で街の皆は自分達で北? 魔術師達が住んでるってところの様子を見に行かなかったんだ?」
「行きたくても行けなかったのよ」
シアンの問い掛けに答えると、ウラルは厳しい顔で一度宙を睨み、躊躇いがながらも続ける。
「北の奴ら、何年か前にやって来て街の北に住みはじめて…街の魔術師とはその頃からもう仲が悪かったし、友好的な関係が築けるなら、って挨拶をしに行ったらしいんだけど、長老と何人かが大怪我して帰ってきた。家の周りに魔術を使った罠をしかけてたの…怪我したうちの一人はそれから歩けなくなって、そのことには気付いているだろうけど魔術師達は何も言って来なかった。そのあともしばらく平和的に話し合う事が出来ないか、ってしてはいたんだけど…だんだん罠が増えて、直接魔術師から攻撃を受けた者も居る。何が起きたか分からない上に、そんな事する奴らだから…」
そこまで言ってウラルはシャトの顔を見たが、すぐ視線をそらし、俯いた。
「あの、ずっと、シャトには言うなって言われてて…ごめん」
唇を噛んでいたシャトはその言葉に首を横に振る。
そのシャトの様子に気付いてはいるのだろうが、シアンはあえて触れることなくスティオンの話を思い返していた。
「街の魔術師と北の奴らって関係あるのか?」
「仲が良いとゆう事はないと思うけど、時々家に来ていたみたい」
「何か知ってるのかねぇ…」
シアンとウラルの話が途切れると、カティーナがシアンに尋ねる。
「精霊との会話とゆうのは難しいのですか?」
「いや、別に…向こうに話す気があればこうして話してるのと変わらない」
「ガーダさんもシャトさんも出来ないと…?」
カティーナの視線を受けて、シャトが躊躇いながらも口を開く。
「シアンさんが言っていましたよね、精霊とゆうのは魔力そのものなんです。魔力を扱えない私達では姿を見ることが出来たとしても、その声は意味をなさない音にしか聞こえません」
「あ、それ。今日聞いたんだけど、タドリはさ、魔力は使えなくても話せるんだって?」
シアンはシャトに聞くべきかウラルに聞くべきか迷ったのか、そう言うと二人の顔を交互に見た。
「えぇ、そうね。でもそれが何でだかまでは知らないわよ? そうゆう者が時々出るってこと以外は何も」
ウラルの答えにシアンは『そっかぁ』と顔を天井に向け残念そうに息を吐いた。
それからしばらく、精霊の事、辺りの木々のこと、採れる薬草に木の実、と他愛のない話が続き、いつの間にか日が傾きはじめていた。
長老達の話し合いはまだ終わらないのか、遣いも無ければガーダが戻ることもない。
「父も話したいだろうから今日はこのままうちに居て? 食事も用意するし、この部屋、自由に使ってもらって構わないわ。騒がしかったり、勝手が違って過ごしにくいかもしれないけどそれは許して。夕食までゆっくりしててね」
そう早口に言って部屋を出たウラルを追うように、シアンはブーツを履くと荷物を持って部屋を出て行く。
いつの間にか中庭で遊んでいた子供達の姿はなく、オーリスが部屋の中を覗き込んでいた。
「先ほど長老様方の所に居たとき、私を見て皆さんが何か話してらしたようですが、あれは何を言われていたのでしょうか?」
思い出したように尋ねるカティーナをシャトはぽかんとした顔で見返し、一体どの話だろうと首を傾げている。
それが雰囲気から伝わったのか、カティーナは
「シアンさんをガーダさんが迎えに出るくらいの時の事ですが…」
と付け足した。
「…あ、はい。…えっと、あの時カティーナさんが自分の力は違うっておっしゃったでしょう? あれが気になっていたみたいです」
「そうですか…。あの、私がついて行ったことでご迷惑にはなりませんでしたか?」
シャトはその問い掛けに少し戸惑ったようだったが、ゆっくりと頷いた。
「迷惑なんて事はないですよ? ただ、もう巻き込んでしまっている気もするのですが、これからもっと、あの…」
シャトは口ごもったが、カティーナは先回りするように微笑んで答える。
「私は巻き込まれたとは思っていません。シアンさんも言っていましたが、自分達でついて来たのです。出来ることがあればお手伝いさせてください」
シャトは困った顔を見せたが、頭を下げると、『ありがとうございます』と小さく言った。