ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 16

翌朝、食事を終えて荷物の整理を始めたところでシャトと、マルートを含む三人の長老と二人の供、そしてガーダとタドリがカティーナとシアンを訪ねてきた。

無理に連れて来られたのか、タドリは背中を丸めるようにその身を縮めて俯いているが、カティーナの顔を見ると小さく頭を下げた。

長老達は二人に心からの感謝を伝え、カティーナの身体を気遣い、『心ばかりですが…』と差し出した布の包みを開いていく。

中には人の拳大から頭ほどに大きい物まで、いくつも石が並んでいた。

深く澄んだ緑色のその石は日にあたるとゆったりと揺らぐような柔らかい光を放ち、シアンは思わず感嘆の声を上げる。

「持てるだけお持ちください。魔術師のつくる薬の材料、宝飾品、用途は多いそうです、お役に立つこともあるでしょう…」

一度は遠慮した二人だったが、"この街の思い出に"と言われてそれぞれが気に入った石を一つずつ手に取った。

「ありがとうございます」

揃って礼を言った二人に長老達は優しい顔で頷き、マルートはその懐から小さな木箱を取り出す。

「それとあわせて、私たちの気持ちを贈らせていただきたい。いつかまた訪ねられる日があるように…」

開かれた木箱の中にはシャトが持っていた物とよく似た朱い飾りが並んでいて、それにつけられた紐を爪の先で掬うように取り上げたマルートはシアンとカティーナそれぞれの首に優しくかけると自分の胸に手を当て穏やかに言った。

「我等の友にどうか貴方の加護を」

それに合わせてその場にいたイマクーティ達が揃って胸に手を当て頭を下げたことにシアンとカティーナは戸惑ったが、同じように頭を下げ、お互いの胸に下がった朱い飾りに目をやった。

"自分達が受け取っていいのだろうか"と思っているらしい二人の手を取り、長老達は改めて感謝の言葉を口にして、タドリと共に頭を下げる。

そして出立の際には見送りに出る、と言い残し、ガーダとシャトを残して家を後にした。

「これ、どうゆう物なの?」

長老達を見送ったシアンはガーダに尋ねながら自分の胸に下がった飾りを手に取り、しげしげと眺めている。

「前にも言ったろう、街で認めた客人の証のようなものだと」

「そうじゃなくてさ、何で出来てるのかなと思って」

ガーダはふっと笑ったかと思うと悪い顔をして息がかかるほどにシアンの顔に近付き、

「人の骨だ」

とその爪をシアンの首筋に滑らせた。

身体を強張らせたシアンにガーダは大きな笑い声をあげ、『すまん』と言うと続けて口を開く。

「人の骨だとゆうのは本当だ。遠い昔、この街を我等イマクーティと共に作り上げたとゆう人間の骨を今でも奉り、崇めているのだ。ずいぶんと強い力を持っていたとゆうからな、お守りだとでも思えばいい。シャトやレイナンはこちらにいる時位しか身に付けていないし、それでどうこうなるものでも無い。どちらかと言えば我等の気持ちの問題だ。深く考えることはない」

シアンが何を言おうとしたが、その前にガーダは手に持っていた袋を『餞別代わりだ』とカティーナに押し付けるように渡し、

「じゃあまた後で」

と手を振りながら出て行ってしまった。

ティーナが袋を開けると中にはそれほど大きくない白い鉱石がいくつか入っていて、シアンはシャトに尋ねる。

「これは?」

「この辺りの山で採れる石ですね。何に使われるのか知りませんが、人の街ならそれなりの値が付きます」

「貰っちゃっていいのかね?」

「ガーダさんに返そうとしても受け取ってはくれないと思いますよ?」

シャトはそう言うと、ガーダの出て行った戸口に寂しそうな視線を向けた。