ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 17

荷物の整理が済むと、三人は挨拶を終えたら一度ガーダの家に集まることにして二手に別れた。

ヒニャ達に会いに浜へと向かっていくシアンを見送り、シャトの案内で街を歩くカティーナは見舞いの品を預けてくれたとゆうイマクーティ達にお礼を言って回るが、行く先々で餞別だ何だと荷物が増えていく。

最後にタドリとヒュアにも会いたいのだとゆうカティーナの両手はすでに貰い物で塞がり、シャトはリュックの中から肩からさげられる布鞄を取り出した。

「お礼に伺ってまた頂き物をしてしまうとは思いませんでした」

そう言ってカティーナは荷物を入れた鞄を自分で運ぼうと手に取ろうとしたが、シャトは『傷に良くないです』とそれをすっと避けて自分の肩から斜めに下げると先に立って歩き出す。

「ヒュアさんはたぶん工房の方ですから少し遠いです。先にタドリさんのところに…」

「すみません、ありがとうございます」

並んで歩く二人の後ろにいつの間にか子供達が集まり、大きな塊になっていたが、その中の一人がシャトの手を取ると、自分達も、と二人の両手はあっという間に塞がり、塊は手で繋がった長い列に変わる。

「シャトどこ行くの?」

「タドリさんのところ」

「タドリ怪我したでしょ? それから元気ないの」

「うん、早く元気になるといいね」

シャトは優しい声で子供達の相手をしている横で、カティーナはどうしたらいいのだろうと、繋がれた手を見下ろし、柔らかな毛の感触と温かさに戸惑っているらしかったが、子供達の笑顔に応えるように笑って見せる。

その笑顔のぎこちなさは子供達にも判るらしく、『何処か痛い?』と尋ね、心配そうにカティーナを見上げてくる。

「大丈夫です。ありがとう」

ティーナがそう言うのと前後して、列から離れた数人の子供が走り出す。

そして一軒の家の戸口に立って大きな声でタドリの事を呼ぶと、すぐに扉が開き、ヒュアが姿を見せた。

ヒュアはシャト達に気付くとひらひらと手を振りにっこりと笑う。

「タドリはー?」

「奥に居るわ。誰か呼んで来てくれる?」

誰が行くかと騒ぐ子供達の声が聞こえたのか、タドリは自分から姿を見せたらしく、子供達に取り巻かれながら表に出るとヒュアの声で顔をあげ、そこで始めてシャト達に気付いた様だった。

ティーナがヒュアとタドリと話せるように、とゆうことなのか、シャトは声をあげてオーリスを呼び、表で子供達の遊び相手をし始める。

「カティーナさん、どうぞ。入って」

「すみません」

「今日帰るんですって?」

「はい。シャトさんが南に戻られるとゆう事なので、一緒に、と。それでご挨拶に」

「わざわざごめんね、よかったのに」

タドリは昨日シャトと一緒にカティーナに会いに来た時にもそうだったが、ヒュアの隣で身体を縮め正面からカティーナを見ないようにしているのか視線は足元へと向いている。

「シャトさんがヒュアさんは工房に…とおっしゃってましたが、こちらに住まわれてるのですか?」

「そうよ。タドリは夫の弟。家族中カティーナさんには本当に感謝してるの」

「いえ、こちらこそ、タドリさんに運んでいただいて、助かりました。ヒュアさんにも傷のことでお世話になりましたし…ありがとうございました。それで、タドリさんにこれを…」

ティーナはヒュアの隣で小さくなっているタドリに紐の付いた小さな石の飾りを差し出した。

「うろ覚えなので形が違っているかも知れませんが、昔いた世界で"守り"と"癒し"を意味する文字を彫ってあります。他にお礼にお渡しできるような物がなくて…」

「お礼だなんて…僕、ごめんなさい…」

「私はもう大丈夫だと言ったでしょう? もう、傷も痛みません。タドリさんの方が心配です」

ヒュアに文字通り背中を押されて、タドリは一歩前に出た。

そして『ありがとうございます』とカティーナの差し出した飾りを受けとると、涙目になりながらカティーナの手をぎゅっと握り、消え入りそうな声で『助けてくれてありがとう』と口にした。

ヒュアは何処か安心した顔でその背を見つめ、それからカティーナに優しく笑いかけた。