ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 18

ティーナ達が外に出るとシャトと一緒にオーリスと遊んでいた子供達が涙目のタドリを心配して駆け寄り、あっという間にタドリの周りが賑やかになる。

「ずいぶん子供達に好かれてるんですね」

「気は弱いけど、面倒見のいい優しい子だもの。それに加えて二重の意味で力があるでしょう。だからこそ、いずれは…って街の皆がタドリの将来に期待してる。カティーナさんにはそうゆう意味でも皆感謝してるのよ。…あと、シャトもそうなんだろうけど、今回の事でカティーナさん、もしかしたらシアンさんも、タドリの憧れの存在になったかもしれないわ」

その言葉に困ったように眉を寄せたカティーナを見てヒュアは声を上げて笑い、『無理しちゃだめよ?』と傷を負った側の肩を手の甲でぽんぽんと軽く叩くと、シャトと話す為に離れていった。

ティーナはそばに寄ってきたオーリスを撫で、シャトから声がかかるまで子供達の中心で笑顔を見せるタドリに視線を向けていたが、ただ視線がそちらに向いているとゆうだけで、何かを見ている訳ではなく虚ろな眼をしている。

「カティーナさん? 大丈夫ですか?」

「え? あ…すみません。行きましょう」

二人はヒュアとタドリに軽いお辞儀をし、手を振る子供達に応えると、オーリスと並んで歩き出した。

 しばらく会話なく歩く二人、カティーナは不意に『ありがとうございました』とシャトに顔を向ける。

それは傷の処置や薬の事に対する礼だったが、タドリと同じく、カティーナが傷を負ったことで責任を感じていたらしいシャトにどう伝えるべきかと考えた末の言葉だった。

シャトは自分に向いたカティーナの顔をちらと見たが、視線を地面に落とす。

「…巻き込んでしまって、ごめんなさい」

「私が自分でしたことです」

案の定、とゆうところだろうか、曇ったシャトの表情にカティーナはレイナンの鋭い視線を思い出していた。

あれからカティーナがレイナンと話す機会はなく、訪ねた方がいいのだろうか、と思っていたらしくシャトに尋ねる。

「レイナンさんはどちらに?」

「父ですか?」

シャトはカティーナを不安そうに見上げ、『たぶん…』と見えてきたガーダの家を指差した。

通り越しに見えるガーダの家はイマクーティ達の出入りが多く、二人はそこで一度立ち止まった。

視界の端で動いた何かに顔を向けたカティーナは、路地に目をやる。

路地の先、ガーダの家の裏手にはシアンの姿が見えたが、何をしているのか、伸び上がったかと思うと屈み込み、そのあとには妙な格好で何かを見上げるような動作をする。

ティーナは首を傾げ、

「シアンさん、何をしているんですか?」

と歩きながら声をかけた。

まだ距離のある場所からかかった声に振り向いたシアンは少し興奮しているのか"ほらほら!"と言わんばかりに大きく手招きをし、二人の歩みが変わらないと見るや走り寄ってくる。

「シャト! 洞窟まで運んでくれるって、竜馬!?」

「え、えぇ。そうです」

その勢いに圧されたシャトが少し身体を後ろに退くようにして答えると、シアンは二人の手首をがしっと掴み、ガーダの家の裏まで引っ張っていく。

「昔、よく見たんだ、竜馬が群れになって空を飛んでるところ。近くで見たのは始めてなんだけどさ! カティーナほら!」

ティーナは手首から離れたシアンの手の先に居る生き物を見上げたが、シアンほどの興奮はなく、ただその身体をまじまじと見つめている。

南方の岩肌を思わせる赤褐色の鎧を纏ったかのような身体に大きな翼、尾は馬のそれとは違い鱗に被われ力強く後ろに伸び、口元には牙が覗いている。

その竜馬はシャトを見ると首を回し、上空にオーリスの影を見つけるとその場一杯に翼を広げ、まるで呼んでいるかのように咆哮をあげながら地面を踏み鳴らす。

「…ぅわ…」

その迫力にシアンは驚きながらも顔を綻ばせていた。