ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 14

食事が終わってしばらくしてウラルが戻ってきた。

ただ、隣にシャトの姿はなく、ウラルの表情も何となく曇っているようにも見える。

ちょうど二人分の食器を持って一階へと下りたシアンはウラルのその顔を見て

「シャトは?」

と瞳を覗き込むようにしながら声をかけた。

「おじ様との話が長引いてるみたい。すぐには来ないと思う…。食器ごめんね、上に置いたままでもよかったのに。ありがとう」

「こっちこそ世話になりっぱなしで悪いね。もう手伝える事も無いみたいだし、居るとそれだけ世話かけるし、明日挨拶して回って、シャトと一緒に私等も帰ろうかってことになったんだ。それで、何かお礼したいんだけど…」

ウラルは食器を片付ける手を止め、『んー』と声を出して眉間にしわを寄せ何と答えようかと悩んでいるらしかったが結局、

「気を遣ってくれなくて大丈夫よ」

と明るく言って、再び食器を片付け始める。

シアンは横でそれを手伝いながら、『何か無い?』ともう一度尋ねたが、自分に出来るのは魔石に力を込めることくらいだよなぁ、とリファルナの顔を思い浮かべた。

思っていたより複雑じゃ無いみたい、と、明日にも北に行って式を解きにかかるとゆうリファルナに対して単純に"すごい"と感じているのだが、思い浮かべた顔から、魔術を生業に出来る人間は少ないよな、あれは儲かるのだろうか、そもそもどの程度の魔力が…と段々関係の無い事へと考えが及んでいくなかで今度はウラルに顔を覗き込まれて変な声をあげた。

「何よ、何か無いって言うから答えたのに、聞いてなかったの?」

「ごめん。何? 私に出来ること?」

「後で魔石持ってくるから、それ、お願いできる?」

「あーあー、喜んで。あ、でも持ってこなくたっていいよ、私が行けばいいんだから」

「でも、後でシャトが来るって言ってたでしょう? 待っててあげて」

「んー、シャトもウラルの家に居るんだろ? それにもし入れ違いになってもこっちはカティーナ居るし、大丈夫だよ」

ウラルはそう言われて仕方なく頷き、カティーナにそのことを伝えに向かうシアンを見送ると、もう一度『んー』と唸り、洗い終えた食器を篭へと詰め込んだ。

 

シアンと連れだって家に戻ったウラルは家に着くしばらく前から耳をそばだてていたが、特に何かが聞こえるとゆうことはなく、そのまま家の戸を開ける。

奥からどうやらガーダとレイナンのものらしい声が聞こえ、ウラルはわざと大きな声で『ただいまー』と言ってからシアンを迎え入れた。

「そこの部屋で待っててくれる?」

「はいよ」

シアンと離れたウラルは奥でシャトの姿を探したが、ガーダとレイナンが居るだけで中庭に居るはずのオーリスの姿も無い。

「シャトなら少し前に出かけたぞ」

「そう…。シアンさん達、シャトと一緒に帰るつもりだって言ってました。お礼したいって今来てくれています」

 「…ウラルさん、少しシアンさんと話をしてみたいんだが、構わないかい?」

レイナンにそう言われたウラルは『本人に聞いてください』とシアンの待つ部屋を教え、何かを尋ねたいのか少しの間だけレイナンの顔を見ていたが、何も言わずに頭を下げるとその場から離れて行った。

「嫌われたかな…?」

「寂しいだけだろう」

そう答えたガーダはさっさと行けとレイナンを軽く蹴飛ばし、自分はウラルの後を追う。

レイナンは呆れたようにふぅと息を吐き、シアンの待つ部屋へと向かって行った。