ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 8

薄曇りの空の下、ガーダとウラルはカティーナとシアンが泊まっている家へ朝食を届けに向かうその途中でリファルナのところに寄った。

ノックをするとすぐに『はーい』と声が聞こえ、軽い足音のあとで勢いよく扉が開く。

リファルナは片手には分厚い本を持ち、耳にペンを挟んだ状態で、眠気覚ましに使われる木の枝を噛んだまま二人を迎えた。

その姿にガーダは眉をしかめ『寝てないのか?』と多少の心配を含んだ声で尋ねると、リファルナは噛んでいた枝を手で押さえ、大きなあくびをする。

「ふぅ。その様子だと気付いてないのね」

「何だ?」

「シャトーおいでー。朝ごはん食べに行くよー」

ガーダ達が食事に誘いに来たことを伝える前にリファルナは奥の部屋に向かってそう声をかけた。

「おはようございます」

姿を見せたシャトは元気こそないものの、そう言って、いつものように困った顔で笑って見せた。

二人は驚いていたが、リファルナはそれを気にすることなく、本とペンを置き、枝を折ると『さぁさぁ!』とシャトを引っ張ってくる。

「あー、シャトの分の食事は家の方なんだ。二人で行ってくれるか? 私達はこのまま食事を届けて来る」

「あら、そう。シャト、じゃあ行きましょ。お腹すいて頭回らないわ」

 シャトは何かを言いたそうなそぶりを見せたが、そのままリファルナに連れられてガーダの家へと向かっていく。

リファルナと並んで歩くシャトはイマクーティ達と挨拶を交わすなかで、時々受ける視線に違和感を覚えたらしく、リファルナを見上げた。

「ごめんね、私が見られてるだけだから気にしないで」

「…リファルナさんはこの街で生まれたんですよね?」

「そうよ。十歳までここに居たわ」

「十歳?」

「人の中で暮らすことも学ばなくてはって、それから暫くイクトゥ・カクナスに住んでた魔術師さんのところに預けられてたの。その頃はまだ年に一、二回は戻ってきていたけどね」

リファルナはシャトを見下ろしにこっと笑って続ける。

「十四の時にクラーナにお願いして一緒に村を出たの。それからはほとんど帰らなかった。両親が街を離れる前に、戻って来ないかって言われたんだけど断ったから、今更何しに来たんだと思ってるイマクーティも少なくないんじゃない? スティオンとはうまくいかなかったみたいだし、北での騒ぎもあったから余計にね」

シャトはリファルナの顔を見上げたまま話を聞いていたが、リファルナにイマクーティにどう思われているのかを気にしている様子はない。

「この街が嫌いですか?」

「そんな訳ないでしょ。嫌いだったら手伝いになんか来ないわ。ただ、イマクーティでも人間でも何でも、集団の中に居るのが苦手なだけ。私の家に来たことあるの覚えてる?」

「はい。森の中の小さなお家…近くに湖がありました」

「ずいぶん前のことなのに良く覚えてるわね。…街から離れたああゆう場所が私にはあってるみたい。クラーナと旅をしてた時はいろんな物を見たし、知らなかったことにたくさん出会って楽しかったけどね。でも途中でレイナンに取られちゃったからなー」

リファルナは冗談めかして言うとシャトの頭をわしゃわしゃと撫で、大きく伸びをした。