ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 9

ガーダの家が近付くと、二人を包むように風が吹いた。

「オーリスね」

リファルナはその風を纏ったままシャトの先に立ってガーダの家の戸を開くと、

「おはようございまーす」

と大きな声をかける。

奥からかつかつと靴が床に当たる音が聞こえ、リファルナは『お?』と目を開き、返事待たずにさっさと中に入っていった。

「お帰り、食事にしよう」

姿を見せたレイナンはオーリスから話を聞いていたのか、シャトがガーダの家を離れていたことには何も言わず、それだけ言うと奥の部屋へと向かっていく。

戸口の外ではいつ来たのかオーリスが鼻を鳴らし、シャトに何かを言っているらしかった。

「オーリス何だって?」

「父が心配してたそうです」

「過保護…でもないか…。まぁいいわ、とりあえずご飯食べちゃいましょ」

群れの皆とは別の部屋で始まった三人での食事はどこかちぐはぐで、会話が弾む事もなく、淡々と進んでいく。

リファルナは無理に話す必要もないだろうと、二人の様子を見ていたが、レイナンと目が合うと冗談のつもりか恥ずかしそうに顔に手を当て身体を捻って見せた。

「今日は一日篭るのか?」

レイナンがその動きを無視して尋ねると、リファルナはつまらなそうに口を曲げて頷き、口を開こうとしてあくびを噛み殺す。

「最初に会った時、シアンさんが何かあったら声かけていいって言ってくれたし、資料の整理手伝ってもらうつもりだけど、シャトも来る?」

「え、あの、私は…魔術の事はさっぱりですし、邪魔になるといけないので…」

「そう。レイナンは今日どうするの?」

「冬に向けて運んで来る物の確認をして回るつもりだ。どうせこちらに居るんだ、済ませられることはすべて済ませる」

「ふーん。…ねぇ、シャト、食事が終わったら一度スティオンの家まで一緒に来てくれる? タドリ君とカティーナさんに届けて欲しいものがあるの」

シャトは食事の手を止め、表情を曇らせたが、『はい』と小さく言った。

ティーナと顔を合わせるのが不安なのか、視線を伏せ、それからは口をきくこともなく食事を済ませたシャトは、リファルナと共にスティオンの家に向かう。

家に着くとリファルナは机の上に並べてあった包帯のような物を二つに分けて布で包み、シャトに渡した。

「どっちでも中身は同じなの、必要じゃないかもしれないけど、一応ね。肌が戻ってきたら巻くといいって教えてあげて。魔力を寄せるようにしてあるから、何でもない布巻くよりいいと思うって」

「はい…お預かりします」

「あと、シアンさんに手が空いてたらこっち来てくれるように伝えて。用があるようならそっち優先で」

リファルナはシャトを見送ると椅子に座り、自分の周りを闇の魔力で包む。

周囲から見れば何の変化もないように見えるが、中で感じる周囲の音や光は遠くなり、徐々にリファルナの五感が鈍っていく。

「大丈夫かしらねぇ…」

と呟いたリファルナはすっと目を閉じ、深い眠りに落ちていった。