ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

帰路 5

南に向かって出発した一行だったが、元々そう口数の多い方ではないカティーナとシャトに加えて何故かシアンまであまり口を開くことなく、時々オーリスやマナテの鳴き声にシャトが応える程度で、会話は殆どないままに洞窟の出口が見えてきた。

特に具合が悪い訳でも、機嫌が悪い訳でもなさそうだったが、シアンは眠気覚ましの枝を暇をつぶすかのように噛み続けている。

「シアンさんが黙っているのは珍しいですね」

ティーナの声に振り返ったシアンはそのことを意識していなかったらしく、枝を噛んだままこめかみを掻き、『んあぁ』とよくわからない相槌を打つ。

「何か考え事ですか?」

「ん、これからどこ行くか考えてはいたけど、私そんな黙ってた?」

「普段から考えればそうですね」

「ふん」

洞窟を抜けるとシアンは大きく伸びをして、青い空から射す日に目を細めている。

「とりあえずクラーナさんに挨拶したいし、まずはシャトの家だな」

そう言ったシアンはローブを脱ぐと荷物と一緒に肩に担ぎ、シャトが止める前に身体に魔力を巡らせ崖から飛び出した。

一段一段はそれほど高くないとはいえ、危ない、と崖下を覗き込むシャトの心配をよそにシアンはさっさと下まで下り、森に向かって走っていく。

「道、分かるのでしょうか」

「…この辺りの森なら迷っても危険はないと思いますが…」

「…追いましょうか?」

ティーナはそう尋ねはするが、動く気配はなく、どうするかはシャトに任せようと思っているらしかった。

マナテの鞍の荷物をつけ直したシャトはオーリスに乗るようにとカティーナを促し、靴を履きかえるとローブを脱ぎマナテに跨がった。

先にシアンを追っていくオーリスに手を振り、シャトはマナテが翼を広げられる場所まで駆け降りると、『ゆっくり行こう』と声をかけ、一足遅れて空へ駆け出す。

結局そう進まない内に立ち止まったシアンは枝葉越しに見え隠れするオーリスを呼び、その声にシャトは少し離れた森の切れ間にマナテを下ろすとのんびりとそちらに向かって行く。

「おぅっ! なんだシャトか…」

背後から近付いたシャト達にシアンは驚いたようだったが、すぐに上を向き、オーリスを探す。

「どっか行っちゃったのか?」

「カティーナさんを乗せたまま精霊の森の方へ行ったみたいですね」

「踏みいると怒りを買うってあれ?」

「ええ、でもそれは嘘なので平気です。少し悪戯好きな精霊達なので人を遠ざける為にそうゆうことにしてあるだけですから」

シャトはマナテから下りるとシアンと並んで歩き出す。

「シャト、近くの村の祭に行くんだって?」

「え…?」

「親父さんから聞いた。小さな村だし、余所から人が集まるようなものじゃないけど綺麗だって。知らないものに出会いたいなら行ってみるといいって言われた」

シャトはレイナンの意図をはかりかねているのか、困惑を隠さず立ち止まり、その様子にシアンは『一緒に行ったら迷惑かな?』と聞くが、シャトはそれには迷わずに首を横に振る。

「きっと喜びます」

そう言ったシャトだったが、まだ何かが引っ掛かっているのか、表情を曇らせている。

シアンは先に立って歩きその顔を見ないようにしているらしかった。

森の切れ間に見上げた空には白い雲が浮かび、辺りには鳥の声が響いている。

「親ってのは勝手だよな」

そのうちにシアンの呟いたその一言は、何故かシャトの耳に残り、それから二人は森を抜けるまで何も言わずにただただ歩き続けた。