帰路 6
シャト達が森を抜けると辺りを一回りしてきたらしいオーリスも戻ってきたが、何故かカティーナの様子が変わっていた。
解かれた髪に淡い色の花冠、まるでレースのように繊細に編み込まれた草のケープ、その肩にはつややかな木の実の飾りが付き、手には摘んだばかりなのか一枚一枚がぴんと張った緑のブーケを抱えている。
「それ、何があったんだよ…?」
シアンは困惑しながらも、きらきらと光をまとってオーリスから下りるその姿に精霊の存在を感じ取っていた。
「オーリスさんが向こうの森に下りたらいつの間にかこう…。精霊さん達が居ることは分かったのですが、何を話すでもなく…」
「割と似合ってるけど、え、シャト、悪戯ってこうゆうの?」
聞かれてシャトは首を横に振り、オーリスを見ると『たぶんですが…』と前置きをして話し出した。
「カティーナさんの傷のこと、知ってるんだと思います。それ、傷に効く薬草の束ですし、木の実は痛み止めに使えるものです。どうゆう形か判りませんが、北でのことが伝わっているのではないでしょうか」
「心配されているとゆうことですか…」
カティーナは『もう大丈夫なのですが』と申し訳なさそうに手の中のブーケを見つめた後で、シャトの顔をまじまじと見て首を傾げる。
「森の中でシャトさんによく似た方をお見かけした気がします。髪が長く眼鏡をかけていなかったのでさっきは気付きませんでしたが」
そう言われてもシャトが驚いた様子は無く、オーリスに促されて歩き出す。
「よくあるらしいです。私にはそうゆうものは見えませんが、姿を変えられる精霊達は好きに遊んでいるみたいなので…」
それを聞いてカティーナは自分を助けてくれて居たとゆう精霊が自身とよく似た姿になっていた事を思いだし、特別なことでは無いのか、と一人で納得したようだったが、『悪戯とゆうのは何ですか?』と花冠を外し、横を歩くオーリスが差し出した鼻先にそれをかけて微笑んだ。
「知った顔を追って森の中に入ったら辺りの様子が一変して迷ってしまって何日も彷徨ったとか、薬草を採りに入ったのに目当ての薬草だけがいっこうに見つからないとか、荒らしさえしなければ危険なことないみたいですし、最後には助けてくれるとゆうことですが、昔、そうゆうことが何度もあったらしくて。今はあの森に入るのは私達くらいですし、そうゆう悪戯をされることはないですけれど」
「なかなか質が悪いな」
シャトの家の畑にさしかかると、それを見計らったように遠くから二頭の山羊が駆けて来る。
「お迎えみたいですね。リーバ! ティカ!」
シャトの声に応えるように頭を振り、駆け寄ってきた二頭はシャトの前でぴたっと止まり、代わる代わるに鳴き声をあげる。
「母がお菓子とお茶の用意をして待っているらしいです」
それぞれティカ、リーバ、オーリスに乗った三人をマナテが追う形で畑を抜けていくと、家の前で手を振るクラーナの姿が見えた。
「お帰りなさーい!」
大声でそう言ったクラーナはいそいそと家の中に戻っていく。
その姿は大して時間は経っていないとはいえ、最初にシアン達が訪ねて来た時を思い起こさせるものだった。